策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


「頭を上げて。間違っているのは彼女の方だ。千鶴さん、あなたの接客は素晴らしいと僕たちはみんな知っている。ああいう時は周りを頼っていい、ここにいる全員があなたの味方だからね」

そう言って、ダニエルはお茶目にウインクをする。彼が場を和ませてくれたおかげで、他の客からも「そうそう、気にしなくていいよ」「厄介なのに絡まれたな」と声を掛けてもらえ、店内はすぐにいつもの雰囲気に戻った。

千鶴は不快な思いをさせてしまったことをもう一度詫びると、その上で「ありがとうございます」と改めて頭を下げた。


その日の夜、珍しくいつもより早く帰宅すると伊織から連絡があった。

普段なら手放しで喜んでいるところだが、今日は店での出来事を引きずっているせいか、なんとなく心にもやがかかっている。

閉店後、両親や兄は『もっと早く止めに入ってやればよかった』と辛そうに謝ってくれたけど、最後まで自分で接客すると決めたのは千鶴だ。そんな風に謝られると、頼りないと思われているのかと落ち込んでしまう。

さらに恵梨香から投げつけられたひと言が、より気落ちを助長した。