「あなた、まともに料理も運べないわけ?」
鼻で笑いながら吐き捨てられ、千鶴は唇をきゅっと引き結んだ。
恵梨香は自分に対し、いい感情を抱いていない。それならば、ここは母に頼んで対応を代わってもらうべきだろうか。
(ううん、大丈夫。このくらい自分でなんとか対処しなきゃ)
今日は金曜日。カウンターや奥の個室には、女将との会話を楽しみながら食事をしている常連客が多くいるのだ。その空間を乱したくはない。
千鶴はカウンターの右奥に座るダニエルと反対側にふたりの席を用意した。紀州塗りの会席盆を新たに準備し、父と兄へ目配せして料理を出してもらう。
本当は胃が痛くなりそうだったが、仕事なのだからと自分を奮い立たせ、心配そうな顔をしているふたりに大丈夫だと頷いて見せた。
「お待たせいたしました。お手数ですが、こちらのお席にご移動願えますでしょうか?」



