策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


伊織に謝られる理由はどこにもないし、逆に千鶴の方が迷惑をかけている。それに助けてもらったお礼を述べるべきところだ。

けれどアテンド役の彼が、長くダニエルの側を離れているのはよくないと千鶴にも理解できたため、今はなにも言わずにこくんと頷く。

「ありがとう。じゃあ、あとで」

伊織は千鶴の頬をさらりと撫でると、踵を返し足早にダニエルの元へと戻っていく。

一方の千鶴はといえば、伊織が触れた頬を真っ赤に染め、その場にしゃがみ込んだのだった。


表面上は何事もなく無事に会食が終わり、千鶴も両親とともに店先まで見送りに出た。

ダニエルは『とても気に入った! ぜひまた来るよ』と日本語で絶賛してくれたし、その後ろに付き従っていたエリックも特に変わった様子はないように見えたため、千鶴は小さく安堵のため息をついた。