策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


真っ青になった千鶴の両肩を掴み、伊織が顔を覗き込んできた。

「大丈夫か? なにもされてない?」

彼は怖いくらいに真剣な表情でこちらを見つめている。エリックに顔を寄せられた時は無意識に仰け反るようにして避けたのに、伊織だとまつ毛の本数を数えられる距離でも平気だった。

「は、はい。すみません、なにか仰っていたのですが、フランス語がわからなくて」
「……『君を味見したい』なんて聞こえてきたから、怒りで理性が吹っ飛びそうだった」

ぼそりと呟いた彼の声が聞こえず、千鶴は首をかしげる。

「あの……」

尋ねようとした千鶴の唇に、伊織の人差し指が触れる。

「謝罪はあとで必ずする。今は戻らないと」