策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


あのパリの夜も、こうして千鶴にキスをして自分のものにしたかった。彼女をこのまま帰したくないと気が逸るあまり、ただベッドに誘うかのような言い回しになってしまったのは、伊織の人生史上でも一、二を争う失策だ。

彼女の話から、一切の恋愛経験がないとわかっていた。だからまずは伊織の想いを告げて、気持ちを確かめ合うべきだったのに。

これまでにないほど愛しいと思える女性との出会いに浮かれ、翌日には離れなくてはならないという現実に焦り、完全に順番を間違えた。

あのあと、伊織がいくら好きだと告げたところで『カラダ目当て』だと思われたに違いない。

ひとりで自宅に戻った後、どれだけ後悔したか。

半年前を思い返すと、今こうしているのが奇跡のように感じる。

「可愛い。もう少しだけ進むよ」

逸る身体と気持ちを理性で抑え込み、決して千鶴の気持ちを無視した行為はしないと彼女にも自分にも言い聞かせる。

服の上から彼女の身体のラインを辿っていた手を素肌に忍ばせ、怖がらせないように快感だけを与えていく。