策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


祖母の店に連れて行ったのも、家族について自分から話したのも、千鶴が初めてだ。彼女なら自分の実家の話をしても変に媚びを売ったりしてこないだろうと思ったし、実際に一切態度が変わることはなかった。

『ご実家の会社に入るという道もあったのに、別の道を選んでこうして海外で働いているなんてすごいですね』と純粋に感心していたようだった。

これまで見た目や実家の大きさで自分の価値を測られてきた伊織にとって、彼女の打算のない純真さは、なによりも得難いものに思える。

絶対に彼女を逃してはならない。そう確信したのはその時だ。

それなのに、千鶴は伊織の気持ちにまったく気がついていない。

単純に考えれば、伊織から食事に誘ったのだから、好意や下心を持たれていると警戒してもおかしくない。

けれど彼女は、自分が異性に好意を持たれる魅力的な女性であるという自覚がまったくないのだ。

どれだけ『可愛い』と思ったままを伝えてみても、千鶴は顔を赤くして照れながら『からかわないでください』と受け流してしまう。