そんな彼が自分のような至って平凡な千鶴に満足できるだろうかと考え出すと、今さらながら不安に襲われる。
「まさか。ガッカリするなんてありえない」
「伊織さん」
「俺がどれほど今日を待っていたか、早く千鶴に思い知らせたい」
緊張で震える千鶴の手を握り、伊織が色っぽい声音で囁いた。それだけで胸のときめきが溢れそうになる。
「でも、千鶴の心の準備を待つよ」
「……え?」
「同居や入籍を急かした俺が言っても説得力がないかもしれないけど、ちゃんと待つから」
伊織は千鶴を安心させるように微笑むと、そっと頬を撫でた。
「でもせっかくの入籍記念日だから、キスは許してくれる?」
顔を寄せ、至近距離で尋ねられた。彼のような素敵な男性から求められ、断れる女性などいるのだろうか。
なんと答えるのが正解なのかわからず、「し、してください」と自分の気持ちを正直に呟いて瞳を閉じる。



