策士な外交官は計画的執愛で契約妻をこの手に堕とす


千鶴の言葉を遮るように、フランス語で畳み掛けられる。せめて言葉が通じれば、もう少しうまく対処できるはず。けれど簡単な英語しか話せない千鶴は、この状況を打破する方法を見つけられないでいた。

どうすべきか困り果てていると、エリックがニヤリと口の端を上げて顔を寄せてくる。こちらの腕を掴む力は酔っているとは思えないほど強く、振りほどけそうにない。

(酔った振りして、なにか変なこと考えてる……?)

終始維持していた千鶴の接客スマイルが引きつり、恐怖を覚えた。

「えっ? あ、あの、困ります……!」
『初心なのを調教するのも悪くないね。決めた、日本滞在中は君で遊ぼう』

ぶんぶん首を横に振り拒絶を示すが、彼の無遠慮な手が着物の胸元に伸びてくる。千鶴の身体が竦んだその時。

「Ne la touche pas! C'est ma fiancée.」

鋭い声音が鼓膜を震わせた。覆いかぶさっていたエリックの肩を掴み、千鶴から引き剥がしたのは伊織だった。彼はふたりの間に割って入り、千鶴の肩をそっと抱き寄せる。