「……とりあえず、着いた、ね……」

空港のロビーに立ち尽くしながら、大きく息を吐く。フランスの空気、というか、もう何もかもが異国感すごすぎて、完全に圧倒されていた。

「先生、疲れました?」

「そりゃ疲れるでしょ……十何時間も飛行機乗って、言葉も通じない国に降り立って……」

「ですよね。じゃあ、ホテルまで行きましょう」

橘は余裕の表情で私のスーツケースを持ち上げる。こういうとこ、妙にスマートなんだよな……。

「フランス語、わかるの?」

「まぁ、簡単な挨拶くらいは」

「……すごいじゃん」

「先生も覚えます? ボンジュールくらいは」

「……ボンジュール」

「はい、合格です」

「バカにしてるでしょ」

「まさか」

ニヤッと笑う橘を睨みつつ、私はホテルへ向かう車に乗り込んだ——。