「……え?」

編集部で渡された資料を見て、思わず固まる。

「海外配信……?」

「はい、椎名先生の作品がついに海外進出することになりました!」

担当編集の橘が嬉しそうに言う。

「フランスやアメリカを中心に、電子書籍として配信される予定です」

「ちょ、ちょっと待って……」

あまりにも急な展開に、頭が追いつかない。

「え、つまり私の漫画が……外国の人にも読まれるってこと?」

「そうですね」

「……マジか」

ついこの前まで、連載が続くだけで必死だったのに。気づけば書店に平積みされ、ランキングに名前が載り、そして今度は海外……?

(夢みたいな話だけど……本当に大丈夫なの?)

「なんか、実感湧かない……」

「まぁ、それなら実際に行ってみます?」

「……は?」

橘が当然のように言う。

「せっかくなので、フランスの漫画イベントに招待されてますし、行ってみませんか?」

「フ、フランス……?」

「はい、先生のサイン会も予定されてますよ」

「え、待って、聞いてないんだけど!?」

「今、伝えました」

「そういう問題じゃない!!!」

パニックになってる私をよそに、橘は楽しそうにスケジュール表を広げた。

「大丈夫ですよ、先生。現地には通訳もついてますし、困ることは何も——」

「いやいや、普通に困るでしょ!!!」