「……で、取材なんですよね?」
橘がいつものようにノートを開く。
「え、えぇ……もちろん、取材よ!!」
先生はあからさまに動揺しながらも、強引に話を進めようとする。
「今回はどんなシチュエーションをお望みで?」
「そ、そうね……!! えっと……その……!!」
言い淀む先生を、橘はじっと見つめる。
「まさかとは思いますが……先生、考えてなかったんですか?」
「…………ち、違う! ちゃんと考えてた!!」
「では、どうぞ」
「えっと……例えば……」
必死に考えながら、先生は適当なアイディアをひねり出そうとする。
「男がこう……ぐっと壁に手をついて……それで……」
「壁ドンですね?」
「そ、そう!! それ!! で、耳元でこう……囁くのよ……!」
橘は無言で立ち上がる。
「…………え?」
先生が言葉を失う間に、橘はすっと先生の後ろの壁に手をついた。
「ほら、こんな感じですか?」
「ちょっ……!?」
顔が近い。想像以上に近い。
「で、囁くんですよね」
「ま、待っ……」
「……先生、どうしてそんなに動揺してるんですか?」
「……~~っ!!」
心臓がうるさい。こんなの、取材じゃない。取材のはずがない。
「ちゃんと取材しましょうよ、先生」
橘は余裕の笑みを浮かべる。
(こいつ……絶対わざとやってる……!!)
「……っ!! もういい!! 取材終わり!!!」
先生は勢いよく橘を突き飛ばした。
「えぇ、せっかく協力してるのに」
「も、もういいの!! 原稿に戻る!!!」
「はいはい」
橘は肩をすくめながら、ノートを閉じた。
「でも先生、ちゃんと書いてくださいね? 僕、取材にはいつでも協力しますから」
「~~~っ!!! うるさい!!!!」



