「……ふふっ、橘ってさぁ……」
「はい、なんでしょう?」
先生はもう完全にふにゃふにゃだ。酔うとこんなに緩くなるとは知らなかった。いや、貴重な取材資料になるなこれは。
「橘ってさぁ……意外とかわいいよねぇ……?」
「は?」
「ふふっ、ほらぁ、いつも私のことからかってくるけどぉ、でも実は……」
先生が橘の顔をじぃっと見つめる。
「……ちょっと、ドキドキしてたりして?」
「……」
「……」
「……は?」
「え、違うのぉ??」
酔った勢いで言ってるのは分かる。分かるけど、それは……それはズルくないか?
「先生、それ以上言うと、僕も容赦しませんよ?」
「えぇ〜? なになにぃ?」
「言いましたね?」
先生はふにゃっと笑いながら、まだこちらをじっと見ている。これは……これは絶対に明日覚えていないやつだ。
「じゃあ、先生」
「なぁにぃ?」
「僕が本当にドキドキしてたら、どうします?」
「えっ?」
一瞬だけ、先生の表情が固まる。酔っていても、この意味は理解できるらしい。
「……し、しないでしょ?」
「どうでしょうねぇ?」
今度はこちらがじっと先生を見る番だった。



