「はぁ……」

私はコーヒーをすすりながら、机に突っ伏した。

「先生、ため息ついてると幸せ逃げますよ」

橘が原稿チェックをしながら、いつもの調子で言う。

「もう十分すぎるほど幸せ逃げた気がするんだけど……」

「あー、それは炎上のことですか?」

「それ以外に何があるのよ……」

「でも、仕事は順調じゃないですか。締め切りも間に合ってるし、単行本も売れてるし」

「いや、そうなんだけど……」

「じゃあ、何か不満でも?」

橘がペンを置いて、こっちを見る。

「……最近、ネタが浮かばなくなってきた」

「え?」

「今まではなんだかんだで、締め切り前にはスイッチが入って書けたんだけど……最近、全然ダメ」

「スランプですか?」

「そう、スランプ」

私は再び机に突っ伏した。

「じゃあ、気分転換に出かけます?」

「え?」

「ずっと家にこもってばっかりだから、気分も煮詰まるんじゃないですか? ほら、散歩とか、カフェとか」

「……まぁ、気分転換は必要かもね」

「じゃあ決まりですね」

橘はさっさと立ち上がる。

「え、今から行くの?」

「もちろんです」

「……しょうがないな」

私は渋々立ち上がった。