「先生、ついにテレビ出演決まりましたよ」
橘がどこか楽しそうに言う。
「……は?」
私は思わず耳を疑った。
「いやいや、冗談でしょ?」
「本当です。某有名トーク番組、来週収録です」
「ちょっと待って、なんでそんな大事なこと勝手に決めるの!?」
「だって、先生断りそうじゃないですか」
「そりゃ断るに決まってるでしょ!!!」
「でも出版社的にはOK出ちゃってるんで、もう逃げられませんよ」
「出版社ォォォ!!!???」
机に突っ伏す私を見て、橘は相変わらずニヤニヤしている。
「まあ、先生がテレビに出るのなんて一生に一度かもしれませんし」
「それフォローになってないからね!?」
「大丈夫ですよ、僕も付き添いますから」
「橘がいると余計に不安なんだけど……」
「ひどいですね?」
「だって、橘絶対余計なこと言うじゃん」
「先生のリアルな取材方法について聞かれたら、正直に答えますね」
「やめろォォォ!!!!!」
私は必死に橘の口を塞ぐ。
「いい!? 絶対に変なこと言うなよ!??」
「変なことって、例えば?」
「“作中のシーンは全て実体験です”とか!!」
「……言ってもいいんですか?」
「絶対ダメに決まってるでしょ!!!」
「じゃあ……どうしようかなぁ」
橘はわざとらしく考えるふりをして、楽しそうに笑った。
「お前、本気で私を潰す気か……」
「まあまあ、せっかくの全国デビューですし、楽しみましょう?」
「私は今すぐこの仕事を辞めたい……」
こうして、私の人生最大の試練が始まろうとしていた――。



