僕は昔から、人に期待するのが苦手だった。
「どうせ最後は離れていく」
そう思ってたから、本気で人を好きになったこともない。
仕事でも、友人関係でも、適度な距離を取るようにしてた。深入りしなければ、傷つくこともない。
……はずだったのに。
「何が『どうせ終わる』よ。始まってもないのに、終わること考えるとか、めっちゃもったいないじゃん」
先生の言葉が、ずっと頭の中に残っている。
「そりゃさ、ずっと一緒にいるなんて保証はないけど……それでも、一緒にいる時間が楽しかったら、それでいいんじゃないの?」
そんなこと、考えたこともなかった。
終わるのが怖いから、最初から深く関わらないようにしてたのに。
でも、先生と一緒にいる時間は、なんていうか……
「楽しい」って、思ってしまった。
僕、いつからこんなに先生のこと考えるようになったんだろう。
「……はぁ」
自分でも、ため息が出る。
「お疲れ?」
隣の席に座る先生が、ペンを止めて僕を見た。
「いや、ちょっと考え事を」
「ふーん、珍しい」
「僕だって、考え事くらいしますよ」
「そうなんだ? じゃあ、何考えてたの?」
「……先生のことです」
「は??」
「冗談ですよ」
「……」
あ、めっちゃ睨まれてる。
「先生、そうやってすぐ睨むの、クセですよね」
「別に睨んでないし……」
「まぁまぁ。仕事戻りましょ」
先生がムスッとしながらも、原稿に向かい始める。
その横顔を見ながら、僕はそっと心の中で呟いた。
(先生と一緒にいる時間が楽しいなら、それでいい……か)
……本当に、そう思えるようになれたら。
僕は、変われるのかもしれない。



