「先生、黙ってるってことは……引いてます?」

「……バカじゃないの?」

「え?」

思わず口をついて出た言葉に、橘が驚いた顔をする。

「何が『どうせ終わる』よ。始まってもないのに、終わること考えるとか、めっちゃもったいないじゃん」

「……」

「そりゃさ、ずっと一緒にいるなんて保証はないけど……それでも、一緒にいる時間が楽しかったら、それでいいんじゃないの?」

「……先生」

「……」

少し言いすぎたかも。でも、なんかモヤモヤして。

「……先生って、ほんとに漫画家ですか?」

「は?」

「なんか、主人公みたいなこと言いますね」

「な、何それ……!」

「でも、ちょっとだけ、そういう考え方もいいなって思いました」

橘が、ふっと笑う。

「……先生と一緒にいると、色々考えちゃいますね」

「え……?」

「僕の中の”取材”、もうちょっと続けてみてもいいですか?」

「な……」

「先生が僕に教えてくれること、結構あるみたいなんで」

「~~~~!!!」

からかうみたいに笑う橘に、私は思わず顔をそむけた。

「……勝手にしなさい」

「はい、先生」

少しだけ、優しい声がした。