「水族館って、もっと静かで落ち着いた場所だと思ってたんだけど……」

「いや、十分静かじゃないですか?」

「……うるさい」

水族館に来たはいいものの、私はさっきから落ち着かない。

遊園地の時と違って、橘がやたらと近い。

人混みの中、さりげなく腕を引かれたり、耳元で話しかけられたりするたびに、心臓が変な音を立てる。

「先生、魚より僕のこと気にしてません?」

「なっ……!! そ、そんなわけないでしょ!!!」

「へぇ? じゃあさっきから僕の方ばっか見てるのはなんでですか?」

「み、見てない!!!」

「あっ、今目そらしましたね」

「う、うるさい!!」

「ふふ、先生かわいいですね」

「はぁ!?!?!?!」

あまりにさらっと言われて、思考がフリーズする。

「……な、何言って……!!」

「お、イルカショーの時間ですよ! 行きましょう!」

「話そらすな!!!!」

「先生、叫んでばっかですね」

ニヤニヤしながら歩き出す橘を追いかけながら、私は顔の熱を冷ますのに必死だった。