「先生、ちょっといいですか?」
橘が原稿チェックの手を止めて、妙に真剣な顔でこっちを見てくる。
「……なに?」
「先生の恋愛シーン、ちょっとリアリティ足りないなーって思いまして」
「……は?」
「だから、実践してみません?」
「はぁ!?!?」
椅子から転げ落ちそうになる。
「じ、実践って何!?!?」
「いや、簡単な話です。デートですよ、デート」
「デート!?」
「ええ、先生にリアルな経験をしてもらうことで、作品のクオリティを上げるっていう、れっきとした取材です」
「いやいやいや!! それもう取材じゃないでしょ!!!」
「いや、“デートの取材”ですよ?」
めっちゃ真顔で言ってくる橘。
「……嘘でしょ」



