逃げたいのに、手首を掴まれていて動けない。
「……そんなの……」
「うん?」
「……引き止めたら、本当に残るの……?」
絞り出すように言うと、橘はふっと笑った。
「先生が本気で言うなら」
「っ……」
心臓が跳ねる。
「でも、“行ってほしくない”じゃなくて”どこか行ってくれた方がマシ”って言われたからなぁ……」
「そ、それは……!!」
「僕、どうしようかな?」
わざとらしく悩む素振りを見せる橘。
「……本気で行く気、あるの……?」
そう聞くと、橘は少しだけ目を伏せた。
「……先生がどう言うか次第、ですかね」
静かにそう言われて、喉が詰まる。
「……っ」
――私が、橘を引き止めたら。
――本当に、ここにいてくれる?
「……先生」
そっと手首を離しながら、橘が優しく名前を呼ぶ。
「……答え、待ってますよ」
そう言って微笑んだ橘に、私の心はさらに乱されていく。



