顔が熱くて、まともに橘の方を見れない。

でも、橘は黙ったまま。
普段ならすぐに軽口を叩くのに、珍しく静かだ。

――気まずい。

「……と、とにかく! 仕事!!」

無理やり話を戻そうとしたその時。

「先生」

橘の指が、私の手首を掴んだ。

「……え?」

「僕、本当に転職するかもしれませんよ?」

少し低い声に、思わず息をのむ。

「でも、先生がちゃんと引き止めてくれたら――」

ぐっと近づいてくる橘の顔。

「考えます」

「っ……!」

「……どうします?」

挑むような瞳が、まっすぐ私を射抜いてくる。

「……」

何も言えないまま、心臓だけがうるさく跳ねた。