橘はそんな私を見て、クスッと笑う。
「先生、今ちょっと赤いですよ」
「は!? 赤くないし!!」
「ふーん?」
明らかに疑わしそうな目。
「仕事しなさい!! ほら、これチェック!」
慌てて原稿を橘に突き出すと、彼は素直に受け取った。
「はーい」
そう言いながらも、どこか楽しそうなのが腹立つ。
「……ほんと、余裕あるよね」
「え?」
「……いや、なんでもない」
私がこんなに動揺してるのに、橘はいつも通り。
でも、さっきの”ちょっとくらい引き止めてくれたらいいのに”って言葉が、ずっと頭の中でリピートされてる。
――引き止めたら、橘は残るの?
……いやいや、そんなの私が決めることじゃない。
「先生?」
「っ、な、何?」
「いや、またペン止まってるなーって思って」
「うるさい!!!」



