「……寂しい、に決まってるでしょ……」

その言葉がこぼれた瞬間、橘の目がわずかに揺れた気がした。

「……そっか」

小さく呟いた橘が、ふっと微笑む。

「なら、ちょっとくらい引き止めてくれたらいいのに」

「なっ……!?」

思わず顔が熱くなる。

「だ、誰がそんなこと……!」

「言わないんですか?」

「……っ」

橘の顔が近い。

「先生がそう言ったら、僕、どうするか分かんないですよ」

冗談みたいに笑いながら、でもその目はどこか真剣で。

「……」

喉が詰まって、言葉が出てこない。

「まぁ、決まるまではまだ時間あるんで」

ふいに距離を戻して、橘はいつもの軽い調子で言った。

「それまでに、ちゃんと考えてくださいね」

そして、何事もなかったように原稿を指さす。

「とりあえず、そろそろ仕事しましょうか、先生?」

「……っ、うるさい!」

ペンを握り直す手が、まだ少し震えていた。