橘が他の出版社に行ったら、もう今みたいに一緒に作品を作ることも、バカみたいな取材をすることもなくなる。
……そんなの、嫌だ。
「……ふぅ」
考えても仕方ないのに、仕事が全然手につかない。
「先生、大丈夫ですか?」
「……え?」
気づけば橘がじっと私を見ていた。
「さっきからペン、全然進んでないですよ」
「……そ、そんなこと……」
誤魔化そうとしたけど、机の上のまっさらな原稿が全てを物語っている。
「先生」
橘の声が、いつもより少し優しく聞こえた。
「僕がいなくなるの、寂しいですか?」
「っ……!!」
心臓が跳ねた。
「べ、別に……!」
「ほんとに?」
じっと目を覗き込まれる。
「……っ」
逃げたいのに、逃げられない。



