「……先生、顔色やばいですよ」
「うるさい……」
翌朝。
私は完全に寝不足で、目の下にクマができていた。
「眠れなかったんですか?」
「当たり前でしょ!!!」
「……もしかして、僕のせいですか?」
橘がニヤニヤしながら聞いてくる。
「うざい!!!!!」
「ひどいなぁ」
そんな私をよそに、橘はしれっと朝食のパンをかじっていた。
(こっちは一晩中意識してたっていうのに……こいつは普通に寝れたのか……)
「ていうか、朝からテンション高すぎでしょ……」
「先生がツッコむからですよ」
「……はぁ」
コーヒーを一口飲んで、なんとか頭を起こそうとする。
(今日の取材、大丈夫かな……)
「先生、今日のスケジュール覚えてます?」
「えっと……昼からは温泉街の取材で、そのあと――」
「カップル向けの旅館ですね」
「っ!!??」
思い出した瞬間、完全に目が覚めた。
(そうだった……今回の取材、そういう設定の宿も見ておくんだった……)
「先生、どうします?」
橘がわざとらしく問いかける。
「どうしますって……行くしかないでしょ……」
「そっか。じゃあ、今日も“徹底的に”取材ですね?」
「……!!」
橘が意味深に微笑む。
(……この男、絶対楽しんでる)
私は無言でコーヒーを飲み干した。



