「……終わった……?」

最後のコマにペンを入れ、私はゆっくりと手を離した。
すでに意識が朦朧としてるけど、原稿を見つめる橘の顔が、どこか満足げに見える。

「……終わりましたね」

「……おわった……」

「よく頑張りました、先生」

「……えへへ……」

力なく笑うと、そのまま机に突っ伏した。
もう、何も考えられない。

「あの、先生」

「んん……?」

「ベッド、行きましょう」

「むり……ここで寝る……」

「ダメです、風邪ひきますよ」

「むり……橘が運んで……」

「……え?」

「お姫様抱っこ……して……」

「……先生、正気ですか?」

「むり……」

「いやいや、先生……」

「むり……」

「……はぁ」

橘がため息をつくのが聞こえた。
次の瞬間、体がふわっと浮く。

(……え?)

ぼんやりと目を開けると、橘の顔がすぐそこにあった。

「まじで運ぶんだ……」

「先生が頼んだんですよ?」

「……うそ……」

「本当です」

「……うそ……」

「……覚えてないんですね?」

「……うそ……」

「もういいです、寝てください」

「……うそ……」

気づけば私は、ふわふわとした眠りの中へ落ちていった。