また、それか。

橘はいつも、私に決めさせようとする。

「……わからない……」

正直な気持ちだった。

漫画のリアリティを追求するために始めたこと。けど、それ以上の気持ちが芽生えてしまった気がする。

「じゃあ、ゆっくり考えればいいですよ」

「え……?」

「焦らなくていい。先生の気持ちがちゃんと整理できるまで、待ちますから」

「……橘……」

まっすぐな目。

その優しさが、逆に苦しくなる。

「……そんな顔しないでくださいよ」

「……え?」

「僕、待つのは得意なんで」

軽く肩をすくめる橘の表情は、やっぱり余裕そうだった。

「……じゃあ、とりあえず……漫画の締め切り、なんとかしてくださいね?」

「……っ!!」

「先生、そろそろ編集部から電話きますよ?」

現実に引き戻される言葉。

「あ、あぁぁぁぁ……!!!」

スマホを見ると、不在着信の数がとんでもないことになっていた。