ぽつりと落ちた言葉は、やけに静かで、やけに重かった。

橘は黙って頷いた。

言葉をかけるには、まだその余韻が強すぎて。

「……なんかね。まだ、夢みたい」

「3年ですもんね」

「うん、3年。……その間ずっと一緒にやってきて。気づいたら、これが日常になってて……」

言いながら、私は手元を見つめる。
インクの染みた指先、ペンだこ。
それらが、過ぎてきた年月のすべてを物語っていた。

「私ね、途中で何回もやめたいって思ったの」

「知ってますよ。編集部通して“逃亡”された日もありましたし」

「……うっ、あったね……」

「でも、やめなかった。先生は、やめなかったんです」

「それは……」

私は、少し言葉を詰まらせて。

「それは、橘がいたから」