「……ふぁ〜……なんか時差ボケ抜けない……」

私は原稿机に突っ伏したまま、大きなあくびをした。
一応、漫画家として〆切に追われる日々には戻ったけど、旅行の余韻が抜けきらない。

「先生、起きてください。作画、今日中じゃないんですか?」

「うるさい……橘がその“取材”とか言ってペース乱したせいよ……」

「それは……まぁ、否定できませんけど」

橘はいつものように飄々と笑いながら、机の上のペンを整え始める。
こうやって編集者という名目で、なぜか毎日いる。…まぁ便利だからいいんだけど。

「てかあんた、なんで今日も泊まりセット持ってんのよ」

「一応、先生がまたスランプになるかもしれないので」

「……取材用ってこと?」

「いえ、普通に泊まって世話焼く用です」

「……は?」

橘は平然とした顔で冷蔵庫を開ける。

「カレー、まだ残ってます?」

「あるけど……」

「じゃあ温めますね。先生、ごはん炊けてます?」

「……炊けてるけど……」

なんか……こういうのに慣れちゃってる自分がちょっと嫌。
旅行中のドキドキはどこいったのよって思いながら、私はまた机に顔を沈めた。

「先生、サラダも付けます?」

「うるさい……」

「あとでアイス買いに行きません?あそこのコンビニ、ピスタチオ味入りましたよ」

「……行く」

なんだかんだで、
こういう日常が一番落ち着くって思ってる自分が、ちょっと悔しい。