「……ていうか!!」

私は必死に息を整えながら、橘を睨みつけた。

「今さら ‘初めてのキス’ みたいな雰囲気出してたけど……」

「はい」

「私たち、もう前にキスしてるから!!!」

「……あぁ、そうでしたね」

橘はしれっとした顔で頷く。

「 ‘そうでしたね’ じゃないでしょ!!! あんた、完全に ‘初めてのキス’ みたいな空気作ってたじゃない!!!」

「いや、先生があまりにも動揺してたので、つい……」

「つい、じゃないわよ!!!」

私は思い切り枕を橘にぶつけた。

「前のキス、忘れたの……?」

「忘れるわけないですよ」

橘はさらっとそんなことを言う。

「じゃあ、なんで……」

「だって、先生が ‘初めてのキス’ みたいに可愛く動揺してたので」

「~~~~っっ!!!!!」

私の顔は一瞬で熱くなった。

「……つまり、からかったってこと?」

「まぁ、そんなところです」

橘は悪びれもせずに笑う。

(こいつ……ほんとに……!!!!)

「……もういい!! 忘れた!!!」

私は布団をかぶって寝たふりを決め込んだ。

(こんな奴にこれ以上振り回されてたまるもんですか……!!!!)

でも、唇に残る感触は、なかなか消えてくれなかった——。