「……冗談はもういいでしょ」
私は枕を投げつけたまま、必死で冷静を装おうとする。
(これ以上、橘のペースに乗せられるわけには……)
「冗談じゃないですよ」
「は?」
橘がゆっくりと私に近づいてくる。
「先生、キスしたことあります?」
「!?!?」
「ないですよね?」
「い、いや…!!!」
心臓が爆発しそうなほど早く脈打つのが自分でもわかる。
「なら、一回くらい試してみてもいいんじゃないですか?」
「いや、だから!!!」
「取材ですよ、取材」
(こいつ…あの時のこと忘れたの……?)
(私たち、もうすでに……)
橘は私の目をじっと見つめたまま、手を伸ばしてくる。
「……嫌なら、やめますけど」
(ずるい……その言い方ずるい……)
「……っ」
言葉が出ない。
(嫌、じゃない……? いや、そうじゃなくて……!!)
思考がぐるぐるしている間に、橘の顔がゆっくりと近づいて——
「……ん」
ふわっと、唇に触れる感触。
一瞬の出来事だったのに、頭が真っ白になる。
「……これで、取材完了ですね」
橘は少しだけ頬を赤くしながら、そう言った。
「…………っっっ!!!!!」
(やばいやばいやばい!!!!)
「先生?」
「な、なんでもない!!!!!」
私は顔を真っ赤にしながら、枕をもう一度橘に投げつけた。
(何が取材だ、バカ!!!!)



