「……冗談にしない方が良かったですか?」

橘のその一言に、心臓がバクバク鳴る。

(やばい……これ、ほんとにやばいやつ……)

「ち、違う!! そもそも冗談とかそういう問題じゃなくて——」

「じゃあ、本気で試してみます?」

「試すって何を!?!?」

私が慌てて距離を取ろうとすると、橘はスッと手を伸ばし——

「ほら、逃げない」

「ひゃっ!?!?」

手首を掴まれて、そのまま引き寄せられた。

「な、何する気……?」

「先生が言ったんじゃないですか?」

「……え?」

「僕が彼氏だったら幸せだったのかな、って」

「…………!!!」

あ、やばい。これ完全に詰んだ。

橘の顔がすぐそこにあって、目が逸らせない。

(だめだめだめ!! こんなの、何か仕掛けられるに決まってる!!!)

「ほ、ほら、もう朝だし!! そろそろ準備しなきゃじゃない!?!?」

「そうですね、じゃあ……」

橘がスッと手を離した。

(よかった……!! なんとかこの場を切り抜け——)

「おはようのキスとか、してみます?」

「はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

「いや、ほら、試すって言いましたよね?」

「言ってない!! 言ってないから!!! いいからもう寝て!!!」

「先生の反応、めちゃくちゃ面白いですね」

「うるさい!!!!!」

私は全力で橘の顔に枕を投げつけた。