紫禁嬢─魅せられし夜






斜め後方で始まったケンカに私は振り向けない。


目の前に立つこのメイファンという女から視線を外し、隙を見せるのが怖い。







「やられちゃうよ?

助けなくていいの、友達」



「‥助けれるだろうね、向こうだけなら。

けど‥‥」



「けど?」



「‥‥‥」







向こうの小さい方の女をヤれば、間違いなくこいつが動く。

薄情な考えだけど、9人やられるよりは8人やられる方が被害は少ない。

ましてや、助かる一人が他でもない自分なら。







「セーラ、もうそのくらいにしときな~」


(‥‥‥)







数分後、サヤ達はたった一人を相手に全滅したらしく、私の背後からケンカの音は消えていた。







「よえーな、こいつら。

ほぼワンパンだったぞ」



「仕方ないよ、女の子だし」






サヤ達にとって、これ以上ない屈辱だったに違いない。

これまで見下してきた一般人、それもたった一人に8人がかりで負けてしまったのだから。






「こいつはどうすんの?」


(‥‥‥)






セイラという女がメイファンの隣に戻り、私は未だ何のアクションも取れずに固まっていた。







「あんた、名前は?」



「‥アンリ」



「さっきの話の続きだけど、そこで倒れてる仲間達を連れて、今夜0時にここに来て」



「‥‥‥」







メイファンはそう言って、中指と人差し指に挟んだ紙切れを私に向けてきた。






「‥‥分かってると思うけど、

逃げない方がいいからね、アンリちゃん」



「‥‥‥」






底知れぬ危なげな瞳を私に向け、妖艶に微笑むメイファンという女。



二人はそのまま悠然と歩き出し、この場から去って行った。






(‥‥‥)