「待たせてごめんなさいっ!」

 彼女は息を切らせながら、私のところに駆けてきた。よほど慌てて走ってきたのか、折角セットしたであろう髪が盛大に乱れていた。

「私の方も道が混んでて、今来たところです」

 乱れた彼女の髪を直しながら、私はそう言った。すると彼女はクスッと微笑み、私に飛び付くように抱きついた。

「もうすぐあなたと結婚するし、早く寝坊癖治さなきゃね」
「……貴女の寝坊癖はたぶんもう治らないと思いますよ」
「え~!そんなことないもん!……たぶん」
「いいですよ、貴女は貴女のままで。貴女が朝弱いなら、私が朝早く起きればいいことですし」
「……私は、毎朝あなたより早く起きて朝ごはん作って、でね、あなたのことをキスで起こしたいの」
「ふふ、そうですか。なら、起きれるように頑張ってくださいね」
「うん!」

 彼女は満面に微笑みながら頷きそして、背伸びをしながら私の唇にキスした。

 彼女は覚えてないようだが、私は人間に生まれ変わった後も、彼女のことを……彼女との思い出を覚えている。
 
 そして今「死神」としてではなく「人間」として、私は彼女の傍にいる。

「……愛しています」

 そう言って私は、彼女のことを抱き締めた。