時雨るる虹はどこか


「それで、飼い主は、、、?」

彼がそう訊くので、わたしは「あんな小さい子猫を元の飼い主を見つけ出して返すのは不安ですし、保護センターに連れて行かれるのも可哀想なので、わたしが今迎えに行くところなんです。」と言うと、「ほら。」と自分の背中に背負っているリュックを彼に見せた。

「そうだったんですね。良かった、優しい飼い主さんが見つかって。」

彼はそう言うと、優しく微笑み「それじゃあ、俺はこれで。」と立ち去ろうとしたので、わたしは「あ!あのぉ!」と彼を呼び止めた。

彼は不思議そうな表情でこちらを振り向くと、「はい。」と返事をした。

「実は、、、ご相談が、、、」

そう言って、わたしは彼に相談を持ち掛けた。

自分で飼うと決めたはいいが、住んでいるマンションがペット不可なこと。
そんな立派なマンションではない為、もし鳴き声が聞こえて苦情がきた場合のこと。

そんなわたしの相談のような不安を彼は真剣に聞いてくれた。

「あの、えっとぉ、あなたは、」
「あ、桔梗です。桔梗和音といいます。」
「桔梗さん!桔梗さん、さっき連れて帰ろうかと思ったと言いましたよね?あ、ちなみにわたしは、秋雨好花と申します。」
「秋雨さんですね。」
「はい。それで、、、うちがペット不可なので、わたしの代わりに飼ってもらえることは可能ですか?あ!無理に言ってるわけじゃありません!わたしも捨てた人間と同じになりたくないので、責任を持って飼いたいとは思ってるんですけど、、、」

わたしがそう言うと、桔梗さんは少し戸惑っているような表情を浮かべ「んー」と唸った。

「あ、大丈夫です!無理なら無理って言ってください!」
「いえ、違うんです。俺は全然構わないんですよ、うちのマンションはペット可だし、、、。ただ、、、」
「ただ?」
「実は俺、ついこないだまで研修医だった医師で、今が一番忙しい時期なんですよ。だから、、、なかなか家にいてあげられないこともあるから、それで迷ってて、、、」

桔梗さんの言葉にある意味で驚くわたし。

この人、医師なんだ。