あれは、ある雨の日だった。
冷たい秋風がコートの中まですり抜けてゆく寒さに身を縮めながら、わたしは傘をさし、いつもの海沿いの道を歩いていた。
すると、風と雨の音に紛れて、微かにか細く助けを求めるような声が聞こえてきた。
わたしは足を止め、耳を澄ませる。
その声は、通り道にあった小さな公園から聞こえてきているようだった。
わたしは公園へと足を踏み入れると、ずぶ濡れのベンチの横に不自然に置いてある段ボール箱に気付き、歩み寄ってみた。
恐る恐る中を覗き込んでみると、そこには黒と薄い灰色の縞模様の子猫が横たわり、必死に助けを求め鳴いていたのだ。
わたしは慌ててしゃがみ込むと、傘の柄を肩と首に挟め、子猫を抱き上げた。
冷え切った子猫はグッタリとして衰弱しており、わたしは自分のコートの中で子猫を抱き、自分の体温で少しでも温めながら近くにある動物病院を検索し、走って子猫を動物病院まで運んだのだった。
「んー、身体は冷え切って衰弱しているけど、特に大きな怪我もないし、大丈夫だと思いますよ。」
獣医さんからの言葉に安堵し、「良かったぁ。」と言葉が溢れる。
「それで、この子、、、捨て猫なんですよね?どうしましょうか?うちで引き取りますか?」
わたしは獣医さんの"引き取る"という言葉に疑問を持ち、「引き取るってゆうのは、、、?」と質問返しをした。
「保護センターに受け渡すということです。」
「そうなると、この子は、、、?」
「運が良ければ家族が見つかるでしょうが、保護期間が過ぎてしまうと処分されてしまいますね。」
処分、、、
それは、この子の死を意味する。
わたしは迷わず、獣医さんに向かって言った。
「わたしが連れて帰ります!」
それが、まだ一歳にも満たない小さなアメリカンショートヘアの"虹子(にこ)"との出会いだった。



