「触るなって、離せよ」



まさかの状況に動揺したのか、先程まで力強く掴んでいた男たちの力が緩む。


その隙に航くんが私の肩を掴み、男たちから離れさせてくれた。



「航くんどうして…」


「ん?」


私がこう問うと、優しい声色に変わる航くんにキュンとしてしまう。


「どうしてここに…」


「まっすぐ家に帰ると思った俺が間違ってたみたいだね。意外と大胆なんだ胡桃ちゃん」



「ごめんなさい私が2人に無理を言ったの…」



「ゲームセンター行くなら誘ってよ」



「へ?」



「胡桃ちゃんが誘ってくれれば遅れてでもついてきたのに…なんて言う資格ないけど」



悲しい顔する航くんに声をかけたいのに、私が弱いから何を言えばいいのか分からない。



「もう大丈夫だよ」



肩を抱きながら話すから、話すたびに背中から航くんの体温を感じて、なんだか安心する。



「なにしてんのよ!早く連れてけよ!もお!」


恋夜さんの怒鳴り声に、男たちがイラつき始める。


「胡桃ちゃん、俺の後ろに」


「え、でもそしたら…!」


「大丈夫、こう見えて強いかもよ?」



一斉に動き出した男たちに、航くんも一緒に飛び掛かる。


青空くんも貝崎さんを体で隠し、庇うように前に出た。


航くんと青空くんが息を合わせ、手荒い喧嘩へと手を染めるのだ。


痛々しい場面が私の視界に入り、どうしようもない状況に涙が溢れ出して止まらない。


喧嘩は5分くらいしただろうか。


皆勢いで争いを始めたために、状況も乱雑とし、何が何だか掴めない。


ただ、恋夜さんは笑っていた。


私はそれが許せなかった。


爪の跡がくっきりと残るほど、手を握りしめていた。





しばらくしてパトカーの音が聞こえて、男たちは航くんと青空くんを最後に軽く蹴飛ばし、「逃げるぞ」と淡々とした様子で私たちから離れていくのだ。


「待ってよ!」と叫ぶ恋夜さんたちなど、見てもいられない。



「航くん!!!青空くん!!!」


すぐさま貝崎さんと私は、壁に寄りかかり座り込む航くんと倒れ込む青空くんの元へと駆け寄る。


が、顔中が痛々しく腫れ上がっていて心が痛い。



それでも2人は私たちを見て、優しく笑ったのだ。