「つける?」
返事が遅い私に、男の子の言葉には全てハテナが入る。
「大丈夫…です」
「かして、後ろ向いて」
「えっいいです!」
「じゃあこっち来て」
「え!?」
手首を掴まれ、私は掴んでいる男の子の手を思わず見てしまう。
「あ、あの…!」
男の子が立ち止まった場所は人混みがなく、物静かな空き教室の前だ。
「はい、じゃあ貸して。んで後ろ向いて」
言われたまま、くしゃくしゃになったリボンを渡して男の子に背を向ける。
男の子の手がふわっと私の長い髪に触れた。
多分これ、見えてないだけでだいぶ至近距離なんじゃないかと、今更ながらにドキドキしている。
「あそこで立ち止まってたら、みんな心配しちゃうからね〜」
急に耳元で喋るから、くすぐったい。
なんて、思っていたら
パン!!と背中を押され、喝を入れられる。
なんだか掴めない。
「ありがとう、なにからなにまで…」
「いーえ」
「あの、…名前は?」
「俺、愛須 航。
君は?」
「漣です…」
「下の名前は?」
「えっと胡桃です」
「漣 胡桃ちゃんね。よろしくねクラスメイト」
「あなたも5組なの?」
「あなたじゃなくて、航ね」
15年生きてきて、こんなに真っ直ぐな笑顔を向けてきてくれたのは初めて。
自然と私の頬も緩み、
「航…くん、よろしくね」
「おっ、やっと笑ったね」

