「どう?少しは休めたかしら」
「うん。だいぶ休めたし、気分も良くなった。
ありがとう、みんなのおかげ!」
「帰りまでここにいて。
あとでまた向かいにくるわね」
「うん…」
せっかくの体育祭。
年に一度のイベント。
好きな人がいる学校。
貝崎さんは「よし」と呟き、鉢巻きを頭に付け直すと
立ち上がった。
この機会を無理してでも参加したいという気持ちが大きくなっていく。
「あっ待って待って!」
貝崎さんがドアに手をかけた瞬間、私は決心し声をかけ、貝崎さんの動きを止めた。
「私やっぱり航くんの走る姿みた…い、んだけど」
決心したのにも関わらず、貝崎さんの表情が一気に曇り始めて最終的には声が小さくなっていく私。
「あのね」と口を開く貝崎さん。
なんだか深刻そうで、私は思わず固唾を呑んで様子を伺う。
「知らないようだから言うけど、漣さんを呼び止めたあの人たちは3年生で、結構な頻度で問題を起こして、先生にも反抗するような人たちらしいの。
恋夜 世奈、彼女の名前よ。
事実、バックに強い男の人もいるって。
漣さんが倒れたあの後、愛須さんは相手が先輩でも負けじと漣さんを守るためにすごい怒ったみたいで、彼女たちは漣さんへの嫌がらせを言い訳しつつも泣く泣く諦めたらしいけど…
でも……私からもお願い。
今日はあんまり愛須くんの周りにいない方が安全よ。
またなにされるか分からない」
本当に私を心配してくれている。
普段から真剣で真面目な貝崎さん。
貝崎さんが間違ったことを言ってるとは到底思うはずもない。

