「胡桃ちゃん」
甘い声で私の名前を呼ぶ。
もちろん私は反応できずにいる。
出会った時から思っていたけれど、航くんって本当に無自覚で人をドキドキさせる。
きっと私にだけじゃない。
彼は俗にいう"天然無自覚男子"なのだ。
好きになってしまうのも仕方がないといえば仕方がない。
航くんと関わりを持てば、この感情に行き着くに違いないのだ。
だから苦しい。
出会ってまだ間もないのに、私は既に航くんに盲目になってしまっているのだから。
航くんが私の名前を呼んでから少し経ったところで保健室のドアが開いた。
「まだ寝とーとかよ。
ガキやな」
この方言ですぐに入ってきたのが青空くんだと分かる。
きっと心配してくれたんだ。
青空くんの優しい部分が最近垣間見えてなんだか嬉しくも感じる。
「楓、聞こえるかもしれないだろ。
もう少し優しくして」
「は?愛須は甘やかしすぎやろ」
「なに?」
優しい航くんの口調が一瞬で冷たくなる。
航くんは青空くんとは反対に最近冷たさが垣間見える。
本当に、掴めない。
「なんね」
「胡桃ちゃんをいじめるならこれ以上近寄らないでもらえるかな?」
「なんね。からかっとーだけやろ」
「いいか?もうやめろ。やめないなら俺はお前と話さない。……言い返せない女の子をいじめる奴が俺は1番許さないんだ」
目の前で繰り広げられる展開に思わず目を開けたくなってしまう。
ただ、青空くんはこれ以上言い返すことができず
沈黙が続く。
その沈黙を破るかのように保健室のドアが開いた。

