意味深な貝崎さんの言葉が引っかかって、この先の会話がどんな内容だったか、覚えていない。


ただ、私の視線の先に先ほどまで座っていた航くんが動き出していて、自然と目で追っている。



「あの子名前なんて言うのか、貴方分かる?」との問いに気付くはずもない私。



「可愛いー!天使ー!」という黄色い声援だけがやけに聞こえて耳が痛いや。



これは本当に予行練習なのか、と思ってしまうほどの熱量に圧倒される。



航くんの顔の良さは既に3学年にまで広がっていて、
「だよね」という思いと「なんだかな」という思いが交互に私を苦しませる。



航くんは勿論顔の良さもいいが、中身がとっても紳士的なこと、みんなは知ってるのかな。



知らなければいいな、なんて思ってしまう。



優しい瞳に優しい仕草に見惚れてしまってからは、すぐだった。



_____航くんと視線が合う。



バッチリ見つめ合うこの瞬間も航くんの感情は分からない。



不思議な人。


何を考えているのか分からない。



目を逸らす事がこんなにも難しいことだったろうか。



好きという気持ちを悟られないように目を合わせ続け、何事もないかのような表情をして、
私ってば本当に素直になれない難しい生き物。



航くんは、私を見つめたまま首を傾げる。



ハッとし、航くんを困らせてしまったのではないかと急いで目を逸らす。



何をしているんだ、私ってば。



さっきまで悟られないように必死だったのに一瞬で振り出しに戻る。



目を逸らした速度が"好き"といっているようなものじゃないか。



私は何となくこの場にいることは不可能だと考え、航くんの距離から遠く遠く離れることに集中した。