航くんの気遣いに少しは楽になったが、気持ちは下がったままだった。
借り物競走か…
よく少女漫画とかにでてくる"好きな人"とかだったらたまったもんじゃない。
その紙をビリビリに破いて失格になった方がいい気がする。
まだ本番まで時間があるにも関わらず、被害妄想が止まらずに泣きそうになる。
ああ、どうしよう。
机に肘をつき、顔全体を手で覆い、一旦落ち着こうとするが、嫌だという思いが溶けてはくれない。
「胡桃ちゃん」
え……?
「このままでいいから聞いて」
近くからする航くんの声に一瞬どきりと胸が跳ね上がる。
手で顔を覆っているから、航くんの顔は見えない。
けど、なんとなくいつもの柔らかい表情だということは見なくても伝わってしまう。
「本当に困ったら僕のところにおいで。胡桃ちゃんの助けにきっとなるからね」
小声なのに、しっかりと聞こえたこの言葉は魔法のように私の心を掴んで離さない。
覆った手を離した時にはもう航くんは教室から出て行こうとしていた。
航くんがどんな理由でこんなことを言ったのかは分からない。
それでも私は航くんから目が離せなくなってしまって、もう戻れないのだろうと確信に変わるのだ。
出会った時から私を気にかけてくれるのは、ただ友達だから…なんだよね。
分かっているのに、気持ちが先走って苦しくなる。
こんなに優しくされちゃ、勘違いしちゃう。
今まで思っていた事が確信に変わり、私の気持ちが湧き上がる。
あの時、あの瞬間から私は航くんに恋していたのだ。

