「そういえば、美菜子のそのブックカバー可愛いよね。どこで買ったの?」
休み時間。
千夏ちゃんが私の読んでいる本に付いているそれを指しながら聞いた。
「ありがとう。実はこれ、私が作ったんだ」
そう。これは以前部室で作っていたブックカバーだ。
空き時間を活用してコツコツ制作し、ついにこの間完成した物である。
「え、それ手作りなの? すごっ! 美菜子って手先器用なんだねー」
「そんなことないよ」
高校入学以降、休み時間ではいつも一人で過ごしてきた私だったけれど、二週間前の昼休みに千夏ちゃんが話しかけてきてくれた日から、彼女と行動を共にするようになった。
部活の子とは仲が良いし、一人でいるのも苦ではなかったけれど、それでもやはり同じクラスの友達が出来るのは嬉しい。
千夏ちゃんは明るくサバサバした性格で、その場にいるだけで場が華やぐような子だ。一緒にいると元気が貰える。
そんな彼女は褒め言葉も真っ直ぐで、嬉しいけど少し照れる。
すると、どこからか「クスッ」と笑う声が聞こえてきた。
「うわ、おばさんくさ」
それは姉崎さんの声だった。
いつもの友達二人と固まって、私達の方を見ながらヒソヒソと話している。
「よくあんな大して上手くもない手作りを見せられるよね。すごい自信」
「それな。承認欲求高すぎじゃね?」
「女子力高いアピールのつもりか知らないけど、古臭いよね」
人間、ネガティブな言葉ほど聴覚が敏感に働くもので、聞き耳なんて立てなくても姉崎さん達の会話がよく聞こえてくる。
辛辣な物言いが心にグサッとくる。
「ちょっとアンタら! さっきからなんなの!? 感じ悪いんだけど!」
千夏ちゃんが立ち上がり、姉崎さん達に物申した。
けれど、姉崎さん達はそれをニヤついた顔で受けながらすっとぼける。
「は? 何が?」
「別にうちら、誰のこととは言ってないじゃんね?」
「被害妄想で怒鳴られるとか理不尽すぎ〜」
「アンタらねぇ……ッ!」
そんな態度にますます怒りを覚えた千夏ちゃんが、今にも彼女達に掴み掛かりそうな勢いで身を乗り出したため、私はそれを止めた。
「いいよ、千夏ちゃん」
「でも……!」
「実際、私自身もまだまだ改善点はあるなと思ってたんだ。それに、試行錯誤しながらより良いものを作り上げていくのも物作りの醍醐味だと思うの。だから大丈夫」
本当は結構ショックだけど、千夏ちゃんに心配をかけたくなくて平気であることを伝える。
「美菜子がそう言うなら……」
「私のために怒ってくれてありがとうね」
「うん」
私の言葉に、千夏ちゃんも怒りを抑えてくれたみたいだ。
一方、姉崎さん達は舌打ちしたり、「つまんな」と呟いて向こうに行ってしまった。
興味を無くしてくれたようでホッとするが、さっきのヒソヒソ話は結構ショックだったなぁ。
「あれ絶対この前のこと根に持ってるんだよ、あの陰湿女共め。ただの腹いせだから間に受けちゃ駄目だかんね?」
心の内を見透かされたのか、千夏ちゃんはそう言って私を気遣う。
それに対し、私も「うん、分かった」と返した。
実際、気にし過ぎるのも良くないし、あれは忌憚のない意見として受け入れよう。
そして、それをバネにもっと手芸が上手くなるように頑張ろう。
「あ、そうだ。話変わるんだけど、次の土曜日一緒に◯◯駅前のショッピングモールに行かない?」
「え、行きたい!」
千夏ちゃんの提案により、急遽、今週末の予定が出来た。
友達とショッピングモールに行くだなんて、なんか高校生って感じがして凄くワクワクする!
中学までは、校則の都合で子供だけでそういうところに行くことは禁止されていたから、尚更そう思う。
……………………………………………………………………
そして、待ちに待った土曜日がやってきた。
休日はいつもワクワクするけれど、この日は友達との約束ということでいつも以上に気持ちが浮つく。
待ち合わせ場所である駅の改札口を出たところで、千夏ちゃんを待つ。
時刻は九時半。待ち合わせは十時からだから、ちょっと早く着き過ぎちゃったみたい。待ち合わせまでまだ随分時間がある。
私はバッグの中から、電車移動の間に読んでいた本を取り出し、栞を挟んだページを開く。
こうして暫く物語の世界に没頭していれば、いい時間潰しになるだろう。
その思惑通り、気付けば時刻はあっという間に待ち合わせ時間を指したようだ。
「美菜子ー! お待たせー!」
休日の賑わいの中でもよく通る女の子の元気な声に顔を上げると、私服姿の千夏ちゃんが手を振りながらこちらに駆け寄って来ているのが見えた。
私は読んでいた本をバッグにしまい、手を振り返す。
千夏ちゃんは私の前で立ち止まると、乱れた息を軽く整えてから敬礼のポーズを取った。
「乃木坂千夏、ギリギリながら無事到着しました!」
「ふふっ、そんなに急がなくても良かったのに」
「そういうわけにもいかないって! じゃあ、行こっか」
「うん」
こうして私達は、目的地であるショッピングモールへと歩いて行った。
駅から徒歩五分の場所にあるそこは、この地域では最も規模の大きいショッピングモールだ。
外観もおしゃれでどこか近未来的な雰囲気がある。
入り口のドアを抜けると、開店からまだあまり時間が経っていないにも関わらず、既に家族連れやカップルなど大勢のお客さんで賑わっていた。
「ほえー、やっぱ休日は人多いわね」
「そうだね。どこから見る?」
「じゃあ、あそこ見たーい!」
そう言って千夏ちゃんが指した先には、女子中高生向けのファッションブランドのショップがあった。あのショップ、実は私も入ってすぐ目に入り、気になっていたところだ。
私達はそのお店に入り、服や帽子などを見ながら何が可愛いか、どれが似合うかなどを話し合った。
そのお店を出た後は、また違うブランドの服を見たり、靴やアクセサリー、雑貨など異なるジャンルの商品を覗いてみたりなど、様々なエリアを探検するように移動していた。
その中でそれぞれ気になった物もあり、私はバレッタ、千夏ちゃんはサマーセーターを購入した。
そうこうしていると、いつの間にか着いてから二時間以上時間が経っていた。
「そろそろお昼にしようか?」
「だね。お腹空いたし!」
私の提案に千夏ちゃんも賛成したことで、次なる移動先はフードコートに決まった。
二人で何を食べるか話しながらエスカレーターに乗り、最上階へと移動する。
エスカレーターを降りて、フードコート内に入ると、予想はしていたものの、既に大変混み合っている状況だった。
「やっば、もうこんなに人いるの? 座れるかな……」
「先に席確保しておこう」
とは言ったものの、見渡す限り席は埋まっていて、二人分の席が確保出来るような感じではない。
ただでさえお昼時な上、休日というのも相まって既に満席になってしまったようだ。
「席、見つからないね」
「うん。ごめんね、私から言ったのに……」
「仕方ないよ、お昼時だし。時間ずらしてまた出直すでも……あっ」
「どうしたの?」
話の途中で何かに気付いたように目を丸くする千夏ちゃん。
その視線の先を辿ると、そこにはうちの高校のジャージを着た男の子四人が座っていた。
しかも、よく見るとその中には水嶋君もいて、私はその団体の正体が一年生バスケ部の面々であることを理解した。
集団のうちの一人が、こちらの存在に気付いたようで立ち上がって声を掛けてきた。
「あれ? ノギちゃんじゃん! ノギちゃんもここに来てたんだ」
その人はやや長めの髪をワックスで遊ばせ、カラフルなヘアピンをつけた、モテそうな雰囲気の人だ。
「佐竹ー! そうなの、今日は友達と遊びに来てるんだ!」
彼の言葉に千夏ちゃんが反応する。
ノギちゃん、というのは千夏ちゃんのことだったんだ。苗字が乃木坂だから、それが由来かな?
やり取りを見る限り、どうやら二人は知り合いのようだ。
佐竹君と呼ばれた彼が急に席を立ったことで、他のチームメイトも食事を止めて私達に目を向けてきた。
水嶋君も顔を上げて、こちらに視線を移す。
そこで私と目が合った水嶋君は、その時初めて私の存在に気付いたのだろう。なんでこんなところにいるんだ? と、顔に書いてある。
「なに? 席、探してる感じ?」
「うん。でも、どこも席空いてないんだよねぇ」
「あららー……」
千夏ちゃんが口を尖らせながら言う。
それを佐竹君は困ったように笑いながら返すが、その後すぐに良いこと思い付いたと言わんばかりの表情を浮かべてこんな提案をしてきた。
「じゃあ、俺らのとこ座る?」
「え?」
「いいの?」
それってつまり、相席ってことだよね?
座れるのはありがたいけれど、部活内のグループで集まっている中、部活関係者でもない私達が入ったら迷惑じゃないかな……?
そんな心配が頭に浮かんだ。
「おぉ、俺らは全然いいよ。なあ?」
佐竹君はチームメイト達に同意を求めるように視線を向ける。
「構わんよ」
「どうぞー」
彼らも快諾してくれて、私達が座れるように体や荷物をずらして場所を空けてくれた。
千夏ちゃんは「マジ助かる〜♪」とルンルン気分で座り出した。
私も少し申し訳なく思いながらも、千夏ちゃんの後を続くように「お邪魔します」と一言言って空いている席に座る。
それが、偶然にも水嶋君の隣の席だった。
最近よく話すようにはなったというのに、人前だからかなんだか緊張するなぁ。
「美菜子、このチャラいのは佐竹悠馬っていうの。六組だよ。そんで佐竹、この子は小岩井美菜子。同じクラスの友達ね」
「どもっ、佐竹悠馬っす! ノギちゃ――乃木坂さんとは中学の時に塾が一緒でした! ……って、ちょっとノギちゃん。『チャラいの』って何よ」
「あ、初めまして。小岩井美菜子です。千夏ちゃんとは最近友達になりました」
佐竹くんに倣い、私も自己紹介と挨拶を返した。
初対面から来る緊張からか、ぎこちない言い方になってしまった気もするけれど。
「そうなんだ。にしても、小岩井ちゃんってなんかお淑やかな感じだねぇ。ノギちゃんとは大ちが――いだだっ!?」
「なんか言った?」
「なんでもないです……!」
佐竹君が話している途中、千夏ちゃんが彼の耳を引っ張って止めた。
その顔には黒い笑みが浮かんでいて、これ以上の軽口は許さないと言外に示しているのを察した佐竹君は口を閉ざす。
まるで漫才のようなやり取りだなと思った。
千夏ちゃんが手を離したことで解放された佐竹君は、痛む耳を抑えながら他のメンバーの紹介を始めた。
「えっと、こいつは道枝教人、こっちは新堂真紘」
佐竹君に紹介された道枝君は「どうも」と軽く頭を下げ、新堂君は「よろしく〜」と余り気味の袖から手を振った。
「で、そいつは水嶋楓斗……って、クラス一緒だから知ってるか」
最後に紹介されたのは水嶋君。
といっても、佐竹君が言うように既に知っているんだけど。
それぞれの名前を知り終えた後、私と千夏ちゃんは彼らに荷物を預かってもらい、それぞれ好きなご飯を買ってきてまた席に戻った。
ちなみに私が買ったのは玉子あんかけうどんだ。
「そういえば、アンタ達はなんでここ来たの?」
千夏ちゃんが味噌ラーメンを一口啜った後、佐竹君達にそう聞いた。
「俺らは部活帰りに腹が減ったから寄ったんだよ」
「家まで持たないからな」
答えたのは佐竹君と道枝君。
運動部は休みの日も部活があるから大変だなと思いながら聞いていたが、ふと彼らのトレーの上に積み上げられた大量のハンバーガーが目に入り、気付いたら尋ねていた。
「凄い量……それ全部食べるの?」
「え? うん」
さも当たり前のように言ってのける佐竹君。
千夏ちゃんも「運動部男子の食事量なんてこんなもんよ」と笑いながら言う。
軽くカルチャーショックを受けるが、そういえばクラスでも野球部の男子が、漫画雑誌くらい大きなタッパーに詰められた白米を掻き込んでいる姿を見たことがある。
だから、千夏ちゃんの言葉にも妙に納得してしまう。
「約一名、例外もいるけどね」
新堂君が水嶋君を見ながら言った。
その言葉に自然と水嶋君のトレーに目が向いてしまうけれど、そこにあるのは普通のハンバーガーセット一つのみで、私みたいな文化部女子でも食べ切れる量だ。
「いつも思うけど、お前、その量でよく足りるな」
佐竹君が信じられない物を見るような目で言った。
それに対し、水嶋君は冷静に返した。
「普通だろ。逆にお前らが食い過ぎなんだ」
「いやいや! お前が食わなさ過ぎなんだって! 一年唯一のレギュラーなのに、そんなんじゃ体力持たねーぞ?」
「水嶋君ってもうレギュラー入りしてるの?」
さらっと言ったけれど、聞き逃すにはあまりにも存在感が強い単語に私は反応した。
「おうよ! この前正式に決まったんだよ。な?」
佐竹君はまるで自分のことのように誇らしげに言いながら水嶋君を見るが、当の本人はまるで他人事のように小さく頷くだけ。
私は運動部に入ったことがないから詳しいことは知らないけれど、確か一年生のうちは基礎練習とか体力作りが主で、レギュラーになるかどうかは二年生になってからの話だと思っていた。加えて、うちの高校のバスケ部は強いと評判だ。
そんな実力者揃いの中で、一年生のうちからレギュラーメンバーに選ばれるということは、きっとそれだけ異例で凄いということなのだろう。
「一年生でレギュラーなんて凄いね」
月並みだけど、素直な感想を水嶋君に伝える。
きっと彼のことだから「たまたまだ」とか「運が良かっただけ」と謙遜するのだろうけれど。
なんて思っていたが、返ってきた返事はちょっと予想していたものと違っていた。
「別に……」
休み時間。
千夏ちゃんが私の読んでいる本に付いているそれを指しながら聞いた。
「ありがとう。実はこれ、私が作ったんだ」
そう。これは以前部室で作っていたブックカバーだ。
空き時間を活用してコツコツ制作し、ついにこの間完成した物である。
「え、それ手作りなの? すごっ! 美菜子って手先器用なんだねー」
「そんなことないよ」
高校入学以降、休み時間ではいつも一人で過ごしてきた私だったけれど、二週間前の昼休みに千夏ちゃんが話しかけてきてくれた日から、彼女と行動を共にするようになった。
部活の子とは仲が良いし、一人でいるのも苦ではなかったけれど、それでもやはり同じクラスの友達が出来るのは嬉しい。
千夏ちゃんは明るくサバサバした性格で、その場にいるだけで場が華やぐような子だ。一緒にいると元気が貰える。
そんな彼女は褒め言葉も真っ直ぐで、嬉しいけど少し照れる。
すると、どこからか「クスッ」と笑う声が聞こえてきた。
「うわ、おばさんくさ」
それは姉崎さんの声だった。
いつもの友達二人と固まって、私達の方を見ながらヒソヒソと話している。
「よくあんな大して上手くもない手作りを見せられるよね。すごい自信」
「それな。承認欲求高すぎじゃね?」
「女子力高いアピールのつもりか知らないけど、古臭いよね」
人間、ネガティブな言葉ほど聴覚が敏感に働くもので、聞き耳なんて立てなくても姉崎さん達の会話がよく聞こえてくる。
辛辣な物言いが心にグサッとくる。
「ちょっとアンタら! さっきからなんなの!? 感じ悪いんだけど!」
千夏ちゃんが立ち上がり、姉崎さん達に物申した。
けれど、姉崎さん達はそれをニヤついた顔で受けながらすっとぼける。
「は? 何が?」
「別にうちら、誰のこととは言ってないじゃんね?」
「被害妄想で怒鳴られるとか理不尽すぎ〜」
「アンタらねぇ……ッ!」
そんな態度にますます怒りを覚えた千夏ちゃんが、今にも彼女達に掴み掛かりそうな勢いで身を乗り出したため、私はそれを止めた。
「いいよ、千夏ちゃん」
「でも……!」
「実際、私自身もまだまだ改善点はあるなと思ってたんだ。それに、試行錯誤しながらより良いものを作り上げていくのも物作りの醍醐味だと思うの。だから大丈夫」
本当は結構ショックだけど、千夏ちゃんに心配をかけたくなくて平気であることを伝える。
「美菜子がそう言うなら……」
「私のために怒ってくれてありがとうね」
「うん」
私の言葉に、千夏ちゃんも怒りを抑えてくれたみたいだ。
一方、姉崎さん達は舌打ちしたり、「つまんな」と呟いて向こうに行ってしまった。
興味を無くしてくれたようでホッとするが、さっきのヒソヒソ話は結構ショックだったなぁ。
「あれ絶対この前のこと根に持ってるんだよ、あの陰湿女共め。ただの腹いせだから間に受けちゃ駄目だかんね?」
心の内を見透かされたのか、千夏ちゃんはそう言って私を気遣う。
それに対し、私も「うん、分かった」と返した。
実際、気にし過ぎるのも良くないし、あれは忌憚のない意見として受け入れよう。
そして、それをバネにもっと手芸が上手くなるように頑張ろう。
「あ、そうだ。話変わるんだけど、次の土曜日一緒に◯◯駅前のショッピングモールに行かない?」
「え、行きたい!」
千夏ちゃんの提案により、急遽、今週末の予定が出来た。
友達とショッピングモールに行くだなんて、なんか高校生って感じがして凄くワクワクする!
中学までは、校則の都合で子供だけでそういうところに行くことは禁止されていたから、尚更そう思う。
……………………………………………………………………
そして、待ちに待った土曜日がやってきた。
休日はいつもワクワクするけれど、この日は友達との約束ということでいつも以上に気持ちが浮つく。
待ち合わせ場所である駅の改札口を出たところで、千夏ちゃんを待つ。
時刻は九時半。待ち合わせは十時からだから、ちょっと早く着き過ぎちゃったみたい。待ち合わせまでまだ随分時間がある。
私はバッグの中から、電車移動の間に読んでいた本を取り出し、栞を挟んだページを開く。
こうして暫く物語の世界に没頭していれば、いい時間潰しになるだろう。
その思惑通り、気付けば時刻はあっという間に待ち合わせ時間を指したようだ。
「美菜子ー! お待たせー!」
休日の賑わいの中でもよく通る女の子の元気な声に顔を上げると、私服姿の千夏ちゃんが手を振りながらこちらに駆け寄って来ているのが見えた。
私は読んでいた本をバッグにしまい、手を振り返す。
千夏ちゃんは私の前で立ち止まると、乱れた息を軽く整えてから敬礼のポーズを取った。
「乃木坂千夏、ギリギリながら無事到着しました!」
「ふふっ、そんなに急がなくても良かったのに」
「そういうわけにもいかないって! じゃあ、行こっか」
「うん」
こうして私達は、目的地であるショッピングモールへと歩いて行った。
駅から徒歩五分の場所にあるそこは、この地域では最も規模の大きいショッピングモールだ。
外観もおしゃれでどこか近未来的な雰囲気がある。
入り口のドアを抜けると、開店からまだあまり時間が経っていないにも関わらず、既に家族連れやカップルなど大勢のお客さんで賑わっていた。
「ほえー、やっぱ休日は人多いわね」
「そうだね。どこから見る?」
「じゃあ、あそこ見たーい!」
そう言って千夏ちゃんが指した先には、女子中高生向けのファッションブランドのショップがあった。あのショップ、実は私も入ってすぐ目に入り、気になっていたところだ。
私達はそのお店に入り、服や帽子などを見ながら何が可愛いか、どれが似合うかなどを話し合った。
そのお店を出た後は、また違うブランドの服を見たり、靴やアクセサリー、雑貨など異なるジャンルの商品を覗いてみたりなど、様々なエリアを探検するように移動していた。
その中でそれぞれ気になった物もあり、私はバレッタ、千夏ちゃんはサマーセーターを購入した。
そうこうしていると、いつの間にか着いてから二時間以上時間が経っていた。
「そろそろお昼にしようか?」
「だね。お腹空いたし!」
私の提案に千夏ちゃんも賛成したことで、次なる移動先はフードコートに決まった。
二人で何を食べるか話しながらエスカレーターに乗り、最上階へと移動する。
エスカレーターを降りて、フードコート内に入ると、予想はしていたものの、既に大変混み合っている状況だった。
「やっば、もうこんなに人いるの? 座れるかな……」
「先に席確保しておこう」
とは言ったものの、見渡す限り席は埋まっていて、二人分の席が確保出来るような感じではない。
ただでさえお昼時な上、休日というのも相まって既に満席になってしまったようだ。
「席、見つからないね」
「うん。ごめんね、私から言ったのに……」
「仕方ないよ、お昼時だし。時間ずらしてまた出直すでも……あっ」
「どうしたの?」
話の途中で何かに気付いたように目を丸くする千夏ちゃん。
その視線の先を辿ると、そこにはうちの高校のジャージを着た男の子四人が座っていた。
しかも、よく見るとその中には水嶋君もいて、私はその団体の正体が一年生バスケ部の面々であることを理解した。
集団のうちの一人が、こちらの存在に気付いたようで立ち上がって声を掛けてきた。
「あれ? ノギちゃんじゃん! ノギちゃんもここに来てたんだ」
その人はやや長めの髪をワックスで遊ばせ、カラフルなヘアピンをつけた、モテそうな雰囲気の人だ。
「佐竹ー! そうなの、今日は友達と遊びに来てるんだ!」
彼の言葉に千夏ちゃんが反応する。
ノギちゃん、というのは千夏ちゃんのことだったんだ。苗字が乃木坂だから、それが由来かな?
やり取りを見る限り、どうやら二人は知り合いのようだ。
佐竹君と呼ばれた彼が急に席を立ったことで、他のチームメイトも食事を止めて私達に目を向けてきた。
水嶋君も顔を上げて、こちらに視線を移す。
そこで私と目が合った水嶋君は、その時初めて私の存在に気付いたのだろう。なんでこんなところにいるんだ? と、顔に書いてある。
「なに? 席、探してる感じ?」
「うん。でも、どこも席空いてないんだよねぇ」
「あららー……」
千夏ちゃんが口を尖らせながら言う。
それを佐竹君は困ったように笑いながら返すが、その後すぐに良いこと思い付いたと言わんばかりの表情を浮かべてこんな提案をしてきた。
「じゃあ、俺らのとこ座る?」
「え?」
「いいの?」
それってつまり、相席ってことだよね?
座れるのはありがたいけれど、部活内のグループで集まっている中、部活関係者でもない私達が入ったら迷惑じゃないかな……?
そんな心配が頭に浮かんだ。
「おぉ、俺らは全然いいよ。なあ?」
佐竹君はチームメイト達に同意を求めるように視線を向ける。
「構わんよ」
「どうぞー」
彼らも快諾してくれて、私達が座れるように体や荷物をずらして場所を空けてくれた。
千夏ちゃんは「マジ助かる〜♪」とルンルン気分で座り出した。
私も少し申し訳なく思いながらも、千夏ちゃんの後を続くように「お邪魔します」と一言言って空いている席に座る。
それが、偶然にも水嶋君の隣の席だった。
最近よく話すようにはなったというのに、人前だからかなんだか緊張するなぁ。
「美菜子、このチャラいのは佐竹悠馬っていうの。六組だよ。そんで佐竹、この子は小岩井美菜子。同じクラスの友達ね」
「どもっ、佐竹悠馬っす! ノギちゃ――乃木坂さんとは中学の時に塾が一緒でした! ……って、ちょっとノギちゃん。『チャラいの』って何よ」
「あ、初めまして。小岩井美菜子です。千夏ちゃんとは最近友達になりました」
佐竹くんに倣い、私も自己紹介と挨拶を返した。
初対面から来る緊張からか、ぎこちない言い方になってしまった気もするけれど。
「そうなんだ。にしても、小岩井ちゃんってなんかお淑やかな感じだねぇ。ノギちゃんとは大ちが――いだだっ!?」
「なんか言った?」
「なんでもないです……!」
佐竹君が話している途中、千夏ちゃんが彼の耳を引っ張って止めた。
その顔には黒い笑みが浮かんでいて、これ以上の軽口は許さないと言外に示しているのを察した佐竹君は口を閉ざす。
まるで漫才のようなやり取りだなと思った。
千夏ちゃんが手を離したことで解放された佐竹君は、痛む耳を抑えながら他のメンバーの紹介を始めた。
「えっと、こいつは道枝教人、こっちは新堂真紘」
佐竹君に紹介された道枝君は「どうも」と軽く頭を下げ、新堂君は「よろしく〜」と余り気味の袖から手を振った。
「で、そいつは水嶋楓斗……って、クラス一緒だから知ってるか」
最後に紹介されたのは水嶋君。
といっても、佐竹君が言うように既に知っているんだけど。
それぞれの名前を知り終えた後、私と千夏ちゃんは彼らに荷物を預かってもらい、それぞれ好きなご飯を買ってきてまた席に戻った。
ちなみに私が買ったのは玉子あんかけうどんだ。
「そういえば、アンタ達はなんでここ来たの?」
千夏ちゃんが味噌ラーメンを一口啜った後、佐竹君達にそう聞いた。
「俺らは部活帰りに腹が減ったから寄ったんだよ」
「家まで持たないからな」
答えたのは佐竹君と道枝君。
運動部は休みの日も部活があるから大変だなと思いながら聞いていたが、ふと彼らのトレーの上に積み上げられた大量のハンバーガーが目に入り、気付いたら尋ねていた。
「凄い量……それ全部食べるの?」
「え? うん」
さも当たり前のように言ってのける佐竹君。
千夏ちゃんも「運動部男子の食事量なんてこんなもんよ」と笑いながら言う。
軽くカルチャーショックを受けるが、そういえばクラスでも野球部の男子が、漫画雑誌くらい大きなタッパーに詰められた白米を掻き込んでいる姿を見たことがある。
だから、千夏ちゃんの言葉にも妙に納得してしまう。
「約一名、例外もいるけどね」
新堂君が水嶋君を見ながら言った。
その言葉に自然と水嶋君のトレーに目が向いてしまうけれど、そこにあるのは普通のハンバーガーセット一つのみで、私みたいな文化部女子でも食べ切れる量だ。
「いつも思うけど、お前、その量でよく足りるな」
佐竹君が信じられない物を見るような目で言った。
それに対し、水嶋君は冷静に返した。
「普通だろ。逆にお前らが食い過ぎなんだ」
「いやいや! お前が食わなさ過ぎなんだって! 一年唯一のレギュラーなのに、そんなんじゃ体力持たねーぞ?」
「水嶋君ってもうレギュラー入りしてるの?」
さらっと言ったけれど、聞き逃すにはあまりにも存在感が強い単語に私は反応した。
「おうよ! この前正式に決まったんだよ。な?」
佐竹君はまるで自分のことのように誇らしげに言いながら水嶋君を見るが、当の本人はまるで他人事のように小さく頷くだけ。
私は運動部に入ったことがないから詳しいことは知らないけれど、確か一年生のうちは基礎練習とか体力作りが主で、レギュラーになるかどうかは二年生になってからの話だと思っていた。加えて、うちの高校のバスケ部は強いと評判だ。
そんな実力者揃いの中で、一年生のうちからレギュラーメンバーに選ばれるということは、きっとそれだけ異例で凄いということなのだろう。
「一年生でレギュラーなんて凄いね」
月並みだけど、素直な感想を水嶋君に伝える。
きっと彼のことだから「たまたまだ」とか「運が良かっただけ」と謙遜するのだろうけれど。
なんて思っていたが、返ってきた返事はちょっと予想していたものと違っていた。
「別に……」
