――あれ?
私は、水嶋君の態度になんだか違和感を覚えた。
いつもなら目を合わせて話してくれるし、話し方ももう少し穏やかだ。
けれど、今は目を逸らしているし、話し方も声のトーンいつもよりぶっきらぼうというか、冷たい感じがする。
気のせいかな……?
「おいおい、『別に……』ってなんだよぉ? ごめんね、小岩井ちゃん。こいつ女子にはみんなこんな感じなんだよ」
「そ、そうなんだ」
佐竹君が軽いノリで水嶋君を咎めた後、私をフォローするように声を掛けてくれた。
つい「それは知らなかった」みたいな反応をしてしまったけれど、水嶋君が女の子に塩対応なのは有名な話だから今更驚くことではない。
ただ、そんな彼と最近では結構打ち解けてきたと思っていた私にとっては、今の素っ気ない態度はなんか引っ掛かる。
「あれ? でも二人って最近よく話してるんじゃなかったっけ?」
私と水嶋君のやり取りに疑問を感じたのか、千夏ちゃんがそんなことを言った。
それを聞いて、佐竹君は「そうなん?」と目を丸くする。
「へぇ、ふー君が女の子と仲良くなるなんて珍しいね」
「だな」
続いて新堂君と道枝君も意外そうにコメントする。
彼らの反応を見て改めて思ったけれど、水嶋君って本当に女の子と関わらないんだ。
興味津々といった感じで目を向けてくるチームメイト達。
対して、水嶋君はツンとした態度でこう返した。
「いいだろ、そんなこと」
心なしか苛立っているような言い方。
まるで、私とのことを話されるのを嫌がっているように見えた。
そういえば、さっき違和感を覚えた態度も、なんだか私と会話することを拒絶するようだった。
もしかして、部活の仲間だけでお昼ご飯を食べていたところを、私達が急に割り込んできたのが嫌だったのかな?
佐竹君の厚意と道枝君と新堂君も良いって言ってくれたから混ぜてもらったけれど、水嶋君は何も言わなかったし。雰囲気的に断りづらかっただけで本当は迷惑だったのかもしれない。
それなのに私はいつもの調子で話し掛けちゃって、鬱陶しいと思われたのかも……。
ネガティブな方向に傾いた思考は、気付けばぐるぐると渦を巻いて私を飲み込んでいく。
周りの人達も水嶋君の様子を見て感じたのか、それ以上突っ込んでくることはなく、佐竹君が話題を変えたことで皆の興味はそちらに移った。
こうして、その日のお昼は和やかな雰囲気で終わりを迎えた。
「じゃあ、うちらはまだ買い物続けるから」
「おっけ。じゃあね!」
「うん、バイバーイ!」
千夏ちゃんと佐竹君が別れの挨拶を交わす。
それを皮切りに、私やみんなも挨拶したり手を振ったりして、解散となった。
飛び入り参加するような形で混ぜてもらったけれど、楽しかったなぁ。
主に佐竹君や千夏ちゃんが盛り上げてくれたおかげで終始笑いが絶えなかったし、私も色々な人とお話出来て楽しかった。
ただ、心のどこかではモヤッとした気持ちが消えないでいた。
水嶋君のことだ。
話し掛けた時の冷たい態度。私のことを聞かれて嫌がる素振り。
考えすぎかもしれないけれど、やっぱりどうしても気にしてしまう。
「あれ? どうかしたの、美菜子?」
そんな複雑な気持ちが顔に出ていたのだろうか。
千夏ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込みながら聞いてきた。
私は誤魔化すように笑顔を作り、「ううん、なんでもない」と答えた。
「ごめん。私、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「あ、うん、りょーかい。待ってるね」
私は千夏ちゃんにそう告げて、その場を離れた。
手を洗いながら鏡に映る自分の顔を見てみる。
言われてみれば、今の私、少し元気がないように見える。これじゃあ、千夏ちゃんにも心配されるわけだ。
どうやら、私、自分で思っていたよりも水嶋君のことを気にしていたみたい。
このままじゃ駄目だ、気持ちを切り替えないと!
そう決意した私は、再びモール内に足を踏み入れた。
もう水嶋君のことは気のせいということにしよう。
それに、せっかく友達と遊びに来ているんだから楽しまなくちゃ勿体ないよね。
心の中で自分に言い聞かせながら、来た道を戻る。
その途中のことだ。
「すみませーん! ちょっと今お時間宜しいでしょうか?」
「きゃあっ」
急に目の前に現れた人影とやたら元気な声に進行を阻まれた。
その人は白シャツに黒のスラックスという出立ちで、首からスタッフ証を下げている。よく見ると、彼のすぐ近くには携帯ショップがある。
きっと、この人は携帯の勧誘で私を呼び止めたのだろう。困ったなぁ……。
「えっと、ごめんなさい。友達を待たせているので……」
断るための常套句みたいなことを言ったが、実際、千夏ちゃんを待たせているわけだから嘘ではない。
てっきりこれで諦めてくれるものだと思っていたのだが、そんなことはなかった。
「一分だけで良いんで! 簡単なアンケートに答えてくれるだけで良いんです!」
それ、多分……いや、絶対一分だけで終わらないやつだ!
アンケートからの契約の話に繋げる未来が見える!
「いえ、申し訳ないんですけど本当に――」
「今、ちょうどクジもやってるんですけど、ホットアイマスクやジュースなんかが当たりますよ! 是非挑戦して行ってください!」
「あの――」
駄目だ、断ろうとしても遮るようにゴリ押し営業トークが次々と展開されていく。
どうしよう……。
マシンガンのように畳み掛けられるトークと、迫ってくる圧の強い営業スマイルに恐怖を覚え、泣きそうになる。
誰か助けて……!
そう心の中の私が叫んだ、その時だった。
「無理です。アンケートもクジもやりません」
またしても私の目の前に人影が現れた。
けれど、今度のそれは阻むものではなく、私を守るように入り込んできたものだった。
ジャージに包まれた広い背中。
私がすっぽりと隠れてしまうくらいの背丈。
何より、この低くて落ち着いた声。
水嶋君だ。
その声は、怒鳴りつけて相手を萎縮するものでもなければ、凄みを効かせるように低く唸るものでもなかった。
静かに、淡々と。だけど、確かな意思表示を見せている。
なんでこんなところに? 佐竹君達と一緒じゃなかったの? という疑問はある。
けれど、それ以上に強い安心が私の心を包んでくれた。
水嶋君の言葉に、押しの強い店員さんの口は閉ざされ、圧のある営業スマイルは引き攣る。
す、すごい……!
私がいくら断っても気にせず迫ってきた店員さんを、たった一言で黙らせてしまった。
「行くぞ」
「あ、うん」
店員さんが怯んだ隙に、私は水嶋君と一緒にその場を離れた。
「あの、水嶋君……?」
「……からな」
「え?」
歩いている途中で水嶋君に声を掛けると、彼は立ち止まってボソッと呟くように何か言った。
それが上手く聞き取れずにいると、今度は大きい声で「違うからな!」と言う。
「たまたま見かけたから声掛けただけで、後を付けてたわけじゃないからな!」
必死に謎の弁明をする水嶋君。その頬は少し紅潮していて、焦りや羞恥といった感情が伝わってくる。
いつも氷のようにクールな顔をしている彼にしては珍しい表情だ。
「だ、大丈夫だよ? そんなこと思ってないから」
寧ろ考えもしなかったことだし、私だってそこまで自意識過剰じゃない。
だから、そんなに必死になって否定しなくてもいいのに……水嶋君って意外と気にしいなのかな?
それに、そんなことはどうでもいい。
私が伝えたいのは感謝の言葉だ。
「ありがとう、助けてくれて。断っても粘ってくるから困ってたの」
あの時、水嶋君が間に入ってくれた時、まるでヒーローが現れたみたいだと思った。
本人に言ったら大袈裟だと返されそうだけど、私にとってはそれくらい頼もしい存在に見えたのだ。
「……別にいい。ああいうのは無視して、すぐその場を離れれば良いんだ。まともに対応しようとすると食い下がってくるぞ」
「そうだね。中途半端に相手するから『こいつは押せばイケる』と思われちゃったのかも……」
確かに、私にも付け入れられる原因はあったかもしれない。水嶋君の言う通り、相手にしないでさっさと離れれば良かったんだ。
自分の店員さんに対する対応を思い返して反省する。
「まあ、悪いのはしつこく勧誘してきた奴だけどな」
あ、今のはひょっとしてフォローしてくれたのかな?
「あと、その……さっきのこと、なんだけど」
「さっき?」
「昼、俺らと一緒だった時」
「あぁ、うん」
本当についさっきのことだ。
それがどうしたんだろうと思いながら次の言葉を待っていると、水嶋君は少し言いづらそうに私に聞いてきた。
「俺、変な態度取ってなかったか……?」
「え?」
「いや、じゃなくて、その……」
水嶋君は少しだけ、首の後ろを触ったり視線を彷徨わせたりと落ち着かない仕草を取るが、その後、何かを決意したような顔で言った。
「ごめん」
その一言を皮切りに、彼の口からぽつりぽつりと言葉が落とされていった。
「今まで……小岩井とは二人だけで話してたけど、今日みたいに人前で話す機会はなかっただろ? だから、普段どういう顔して小岩井と話したか、急に分からなくなって。それに俺、普段女子とほとんど話さないから、絶対あいつらにイジられると思って。そう思うと余計に上手く話せなくなって、だから、あんな態度に……」
水嶋君にしては要領を得ない話し方だ。
けれど、言いたいことは伝わった。
それに、その話し方が逆に、彼の言い訳がましさのない誠実な気持ちを分かりやすく表している。
「そうだったんだ……」
理由を聞いた私は安堵の息を漏らす。
「良かった……」
「え?」
「あ、いや、えっと」
しまった。
一息吐いただけのつもりが、心で呟いたはずの声まで出てしまっていたみたいだ。
咄嗟に誤魔化そうとしたが、さっきの水嶋君を思い出し、私も素直に伝えることにした。
「てっきり、私が何かしちゃったのかなって思って不安だったんだ。お昼も急にお邪魔することになっちゃったわけだし。もしくは、私と友達だと思われるのが嫌なのかもって……」
「いや、それはない。嫌じゃない、全然」
食い気味に否定された。
その言い方が何だか面白くて、思わず笑い声が漏れてしまった。
「ふふっ」
「何故笑う」
「ご、ごめん……ふふっ、あはは!」
悪いとは思いつつも笑いを堪えることができず、ついには声に出して笑ってしまった。
それに水嶋君はムッと顔を顰めるが、次の瞬間には、私に釣られたのか彼も笑い出した。
そのまま少しの間、二人で笑い合いながら歩いて行き、落ち着いたところで立ち止まる。
「じゃあ、俺こっちだから」
「うん、私も千夏ちゃんのところに戻るね。ありがとう」
「ん」
改めてお礼を言うと、水嶋君は小さく頷いた後、背を向けて歩いていった。
なんだか今日は色々な表情の水嶋君を見た気がするな。
焦ったり、拗ねたり、笑ったり。
助けてくれた時はいつものクールでかっこいい水嶋君だったけれど、それ以外だとかっこいいというより可愛いって感じだった。
まあ、「可愛い」なんて本人に言ったら怒られそうだけど。
それに、あの冷たい態度の理由が分かったおかげで、胸の奥に広がっていたモヤモヤは消えた。
嫌われたとかじゃなくて本当に安心した。
さてと、千夏ちゃんを待たせているから私も早く行こう。
私は再び歩き出し、千夏ちゃんと別れたお店の前に向かう。
着くと、スマホを弄りながら立っているお洒落さんが立っていたから声を掛ける。
「お待たせー」
「おー、美菜子。どったの? なんか嬉しそうじゃん」
「え? そうかな?」
なんて会話をしながら、私達はショッピングを再開し始めた。
その日はとても楽しい一日を過ごすことが出来た。
私は、水嶋君の態度になんだか違和感を覚えた。
いつもなら目を合わせて話してくれるし、話し方ももう少し穏やかだ。
けれど、今は目を逸らしているし、話し方も声のトーンいつもよりぶっきらぼうというか、冷たい感じがする。
気のせいかな……?
「おいおい、『別に……』ってなんだよぉ? ごめんね、小岩井ちゃん。こいつ女子にはみんなこんな感じなんだよ」
「そ、そうなんだ」
佐竹君が軽いノリで水嶋君を咎めた後、私をフォローするように声を掛けてくれた。
つい「それは知らなかった」みたいな反応をしてしまったけれど、水嶋君が女の子に塩対応なのは有名な話だから今更驚くことではない。
ただ、そんな彼と最近では結構打ち解けてきたと思っていた私にとっては、今の素っ気ない態度はなんか引っ掛かる。
「あれ? でも二人って最近よく話してるんじゃなかったっけ?」
私と水嶋君のやり取りに疑問を感じたのか、千夏ちゃんがそんなことを言った。
それを聞いて、佐竹君は「そうなん?」と目を丸くする。
「へぇ、ふー君が女の子と仲良くなるなんて珍しいね」
「だな」
続いて新堂君と道枝君も意外そうにコメントする。
彼らの反応を見て改めて思ったけれど、水嶋君って本当に女の子と関わらないんだ。
興味津々といった感じで目を向けてくるチームメイト達。
対して、水嶋君はツンとした態度でこう返した。
「いいだろ、そんなこと」
心なしか苛立っているような言い方。
まるで、私とのことを話されるのを嫌がっているように見えた。
そういえば、さっき違和感を覚えた態度も、なんだか私と会話することを拒絶するようだった。
もしかして、部活の仲間だけでお昼ご飯を食べていたところを、私達が急に割り込んできたのが嫌だったのかな?
佐竹君の厚意と道枝君と新堂君も良いって言ってくれたから混ぜてもらったけれど、水嶋君は何も言わなかったし。雰囲気的に断りづらかっただけで本当は迷惑だったのかもしれない。
それなのに私はいつもの調子で話し掛けちゃって、鬱陶しいと思われたのかも……。
ネガティブな方向に傾いた思考は、気付けばぐるぐると渦を巻いて私を飲み込んでいく。
周りの人達も水嶋君の様子を見て感じたのか、それ以上突っ込んでくることはなく、佐竹君が話題を変えたことで皆の興味はそちらに移った。
こうして、その日のお昼は和やかな雰囲気で終わりを迎えた。
「じゃあ、うちらはまだ買い物続けるから」
「おっけ。じゃあね!」
「うん、バイバーイ!」
千夏ちゃんと佐竹君が別れの挨拶を交わす。
それを皮切りに、私やみんなも挨拶したり手を振ったりして、解散となった。
飛び入り参加するような形で混ぜてもらったけれど、楽しかったなぁ。
主に佐竹君や千夏ちゃんが盛り上げてくれたおかげで終始笑いが絶えなかったし、私も色々な人とお話出来て楽しかった。
ただ、心のどこかではモヤッとした気持ちが消えないでいた。
水嶋君のことだ。
話し掛けた時の冷たい態度。私のことを聞かれて嫌がる素振り。
考えすぎかもしれないけれど、やっぱりどうしても気にしてしまう。
「あれ? どうかしたの、美菜子?」
そんな複雑な気持ちが顔に出ていたのだろうか。
千夏ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込みながら聞いてきた。
私は誤魔化すように笑顔を作り、「ううん、なんでもない」と答えた。
「ごめん。私、ちょっとお手洗い行ってくるね」
「あ、うん、りょーかい。待ってるね」
私は千夏ちゃんにそう告げて、その場を離れた。
手を洗いながら鏡に映る自分の顔を見てみる。
言われてみれば、今の私、少し元気がないように見える。これじゃあ、千夏ちゃんにも心配されるわけだ。
どうやら、私、自分で思っていたよりも水嶋君のことを気にしていたみたい。
このままじゃ駄目だ、気持ちを切り替えないと!
そう決意した私は、再びモール内に足を踏み入れた。
もう水嶋君のことは気のせいということにしよう。
それに、せっかく友達と遊びに来ているんだから楽しまなくちゃ勿体ないよね。
心の中で自分に言い聞かせながら、来た道を戻る。
その途中のことだ。
「すみませーん! ちょっと今お時間宜しいでしょうか?」
「きゃあっ」
急に目の前に現れた人影とやたら元気な声に進行を阻まれた。
その人は白シャツに黒のスラックスという出立ちで、首からスタッフ証を下げている。よく見ると、彼のすぐ近くには携帯ショップがある。
きっと、この人は携帯の勧誘で私を呼び止めたのだろう。困ったなぁ……。
「えっと、ごめんなさい。友達を待たせているので……」
断るための常套句みたいなことを言ったが、実際、千夏ちゃんを待たせているわけだから嘘ではない。
てっきりこれで諦めてくれるものだと思っていたのだが、そんなことはなかった。
「一分だけで良いんで! 簡単なアンケートに答えてくれるだけで良いんです!」
それ、多分……いや、絶対一分だけで終わらないやつだ!
アンケートからの契約の話に繋げる未来が見える!
「いえ、申し訳ないんですけど本当に――」
「今、ちょうどクジもやってるんですけど、ホットアイマスクやジュースなんかが当たりますよ! 是非挑戦して行ってください!」
「あの――」
駄目だ、断ろうとしても遮るようにゴリ押し営業トークが次々と展開されていく。
どうしよう……。
マシンガンのように畳み掛けられるトークと、迫ってくる圧の強い営業スマイルに恐怖を覚え、泣きそうになる。
誰か助けて……!
そう心の中の私が叫んだ、その時だった。
「無理です。アンケートもクジもやりません」
またしても私の目の前に人影が現れた。
けれど、今度のそれは阻むものではなく、私を守るように入り込んできたものだった。
ジャージに包まれた広い背中。
私がすっぽりと隠れてしまうくらいの背丈。
何より、この低くて落ち着いた声。
水嶋君だ。
その声は、怒鳴りつけて相手を萎縮するものでもなければ、凄みを効かせるように低く唸るものでもなかった。
静かに、淡々と。だけど、確かな意思表示を見せている。
なんでこんなところに? 佐竹君達と一緒じゃなかったの? という疑問はある。
けれど、それ以上に強い安心が私の心を包んでくれた。
水嶋君の言葉に、押しの強い店員さんの口は閉ざされ、圧のある営業スマイルは引き攣る。
す、すごい……!
私がいくら断っても気にせず迫ってきた店員さんを、たった一言で黙らせてしまった。
「行くぞ」
「あ、うん」
店員さんが怯んだ隙に、私は水嶋君と一緒にその場を離れた。
「あの、水嶋君……?」
「……からな」
「え?」
歩いている途中で水嶋君に声を掛けると、彼は立ち止まってボソッと呟くように何か言った。
それが上手く聞き取れずにいると、今度は大きい声で「違うからな!」と言う。
「たまたま見かけたから声掛けただけで、後を付けてたわけじゃないからな!」
必死に謎の弁明をする水嶋君。その頬は少し紅潮していて、焦りや羞恥といった感情が伝わってくる。
いつも氷のようにクールな顔をしている彼にしては珍しい表情だ。
「だ、大丈夫だよ? そんなこと思ってないから」
寧ろ考えもしなかったことだし、私だってそこまで自意識過剰じゃない。
だから、そんなに必死になって否定しなくてもいいのに……水嶋君って意外と気にしいなのかな?
それに、そんなことはどうでもいい。
私が伝えたいのは感謝の言葉だ。
「ありがとう、助けてくれて。断っても粘ってくるから困ってたの」
あの時、水嶋君が間に入ってくれた時、まるでヒーローが現れたみたいだと思った。
本人に言ったら大袈裟だと返されそうだけど、私にとってはそれくらい頼もしい存在に見えたのだ。
「……別にいい。ああいうのは無視して、すぐその場を離れれば良いんだ。まともに対応しようとすると食い下がってくるぞ」
「そうだね。中途半端に相手するから『こいつは押せばイケる』と思われちゃったのかも……」
確かに、私にも付け入れられる原因はあったかもしれない。水嶋君の言う通り、相手にしないでさっさと離れれば良かったんだ。
自分の店員さんに対する対応を思い返して反省する。
「まあ、悪いのはしつこく勧誘してきた奴だけどな」
あ、今のはひょっとしてフォローしてくれたのかな?
「あと、その……さっきのこと、なんだけど」
「さっき?」
「昼、俺らと一緒だった時」
「あぁ、うん」
本当についさっきのことだ。
それがどうしたんだろうと思いながら次の言葉を待っていると、水嶋君は少し言いづらそうに私に聞いてきた。
「俺、変な態度取ってなかったか……?」
「え?」
「いや、じゃなくて、その……」
水嶋君は少しだけ、首の後ろを触ったり視線を彷徨わせたりと落ち着かない仕草を取るが、その後、何かを決意したような顔で言った。
「ごめん」
その一言を皮切りに、彼の口からぽつりぽつりと言葉が落とされていった。
「今まで……小岩井とは二人だけで話してたけど、今日みたいに人前で話す機会はなかっただろ? だから、普段どういう顔して小岩井と話したか、急に分からなくなって。それに俺、普段女子とほとんど話さないから、絶対あいつらにイジられると思って。そう思うと余計に上手く話せなくなって、だから、あんな態度に……」
水嶋君にしては要領を得ない話し方だ。
けれど、言いたいことは伝わった。
それに、その話し方が逆に、彼の言い訳がましさのない誠実な気持ちを分かりやすく表している。
「そうだったんだ……」
理由を聞いた私は安堵の息を漏らす。
「良かった……」
「え?」
「あ、いや、えっと」
しまった。
一息吐いただけのつもりが、心で呟いたはずの声まで出てしまっていたみたいだ。
咄嗟に誤魔化そうとしたが、さっきの水嶋君を思い出し、私も素直に伝えることにした。
「てっきり、私が何かしちゃったのかなって思って不安だったんだ。お昼も急にお邪魔することになっちゃったわけだし。もしくは、私と友達だと思われるのが嫌なのかもって……」
「いや、それはない。嫌じゃない、全然」
食い気味に否定された。
その言い方が何だか面白くて、思わず笑い声が漏れてしまった。
「ふふっ」
「何故笑う」
「ご、ごめん……ふふっ、あはは!」
悪いとは思いつつも笑いを堪えることができず、ついには声に出して笑ってしまった。
それに水嶋君はムッと顔を顰めるが、次の瞬間には、私に釣られたのか彼も笑い出した。
そのまま少しの間、二人で笑い合いながら歩いて行き、落ち着いたところで立ち止まる。
「じゃあ、俺こっちだから」
「うん、私も千夏ちゃんのところに戻るね。ありがとう」
「ん」
改めてお礼を言うと、水嶋君は小さく頷いた後、背を向けて歩いていった。
なんだか今日は色々な表情の水嶋君を見た気がするな。
焦ったり、拗ねたり、笑ったり。
助けてくれた時はいつものクールでかっこいい水嶋君だったけれど、それ以外だとかっこいいというより可愛いって感じだった。
まあ、「可愛い」なんて本人に言ったら怒られそうだけど。
それに、あの冷たい態度の理由が分かったおかげで、胸の奥に広がっていたモヤモヤは消えた。
嫌われたとかじゃなくて本当に安心した。
さてと、千夏ちゃんを待たせているから私も早く行こう。
私は再び歩き出し、千夏ちゃんと別れたお店の前に向かう。
着くと、スマホを弄りながら立っているお洒落さんが立っていたから声を掛ける。
「お待たせー」
「おー、美菜子。どったの? なんか嬉しそうじゃん」
「え? そうかな?」
なんて会話をしながら、私達はショッピングを再開し始めた。
その日はとても楽しい一日を過ごすことが出来た。
