いちごアイスの溶けはじめ

 彼はまるで、いちご味のアイスクリームみたいな人だ。

 人を惹きつける魅力を持ちながらも、素っ気なくて他人に心を許さない姿は、いちごアイスの溶けにくさによく似ている。
 向ける眼差しも、崩れない表情も、告げる言葉も……何もかもがひんやりしていて、綺麗な見た目に釣られて安易に近寄れば痛い目を見るのがオチだ。
 甘さを感じる前に、冷たさで舌がやられてしまうだろう。
 見ていただけの私でも、その冷気を肌で感じていた。

 溶ける気配のない、硬く凍ったいちごアイス。
 それが彼に抱く印象だった。
 
 けれど、その認識に変化が訪れることとなった。
 あの日の帰りの駅のホーム。
 偶然同じ味のアイスを食べていた彼と初めて会話したことがきっかけで、私はその冷たさの奥にちゃんと味があることを知ったのだ。

 冷徹な顔の裏側に隠れていた不器用で照れ屋な一面。
 淡白に聞こえる言葉に滲んでいる思いやり。

 そして、一緒に過ごす時間が増えていくにつれて、硬かった彼は柔らかく溶けていき、徐々に甘い素顔を見せるようになる。

 笑うと目尻が優しく垂れるところ。
 ペットに微笑ましい愛称をつけているところ。
 サラッと直球に褒めてくれるところ。

 それはキュッとした酸味と果肉を噛み締めた後にやってくる、濃厚だけど優しい甘さみたいで。
 だけど、口に入れる度に顔が火照って仕方がない。
 
 彼がいちごアイスみたいだという印象は今でも変わらない。
 冷たくて、少し酸っぱくて。


 ――だけど、そこには私だけが知る優しい甘さが隠れていた。