私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

 それからオレリアに連れられ、森の中を歩いた。

 静かで空気が澄んでいて、オレリアの言う通り過ごしやすい場所だった。歩いている間中、オレリアはずっと機嫌よく話していた。

 話題は主に兄のこと。正直あまり興味はないが、ただ相槌を打って歩いていればいいのだと思えば気が楽だった。

「リュシアン様、少し疲れませんか? 向こうに休憩できる小屋があるんですよ。休んでいきませんか?」

 長いこと森の中を歩き、少し木々が少ない場所に出た辺りで、オレリアが足を止めて尋ねてきた。

 オレリアが指さす方向を見つめると、小さな木造の小屋がある。

「俺は特に疲れていないが」

「まぁ、リュシアン様は体力がありますのね。いつも鍛錬を頑張ってらっしゃいますものね。実を言うと私は少し疲れてしまったので、寄ってもいいでしょうか?」

「そうか。気がつかなくてすまない。休んでいこう」

 謝ると、オレリアはにっこり微笑んだ。

 本音を言えば、小屋になど行かず早く馬車に戻りたかった。早くこの散歩を終わらせて王宮に帰りたい。ジスレーヌが人に見つかっていないか不安だし、あいつが部屋を探っていないかも不安だ。

 しかし、疲れているので休みたいと言われてしまっては断るわけにはいかない。

 面倒になる気持ちは押し殺して、オレリアの後に続いて小屋に足を踏み入れた。


 そこは、小屋と言っても随分広々とした場所だった。外観はいかにも自然の中にありそうな木造の建物なのに、中はまるで王都にある専門店のように整っている。

 部屋の真ん中には大きなテーブルが一つあり、それを囲うようにソファが置いてあった。奥に見えるキッチンには最新式の魔道具がいくつも並んでいる。

 小屋の中に人影はないが、普段は食堂でもやっているのだろうかと思いながら眺めた。

「リュシアン様、座ってお待ちください。今お茶を淹れてきますね」

 オレリアは俺をソファに座らせると、キッチンスペースに向かい、慣れた手つきで紅茶を淹れる。

「随分慣れているな」

「この小屋には森に来るたびに寄っていますから。あ、ちゃんと店主さんには道具を好きに使っていいと許可をもらっていますよ」

「ここは食堂か喫茶店か何かなのか?」

「そのようなものです。娯楽でやっているお店みたいですわ」

 オレリアはそう言いながら、ティーポットとカップをトレーに乗せて運んできた。ソファに腰掛けたオレリアは、手早く紅茶を淹れて俺の前に置く。

「リュシアン様、どうぞ召し上がってください」

 オレリアは柔らかな笑顔を浮かべて言った。昔から見慣れている穏やかな笑み。

 しかし、今日はその瞳の奥がなんだか暗く光って見えるような気がした。こちらに狙いを定め、隙をついて噛みつこうとするかのような。

 目の前で湯気を立てる紅茶に口をつける気になれない。

「どうかされましたか?」

「……いや、なんでもない」

 そう言いながら、カップを口元まで運ぶ。一瞬口をつけたが飲む気にはなれず、飲むふりをしてそのままソーサーに戻した。

 オレリアは俺の動揺を知ってか知らずか、ずっと笑みを浮かべている。

「リュシアン様、今日は私のお願いにつき合っていただきありがとうございます。とても楽しかったですわ」

「いや、これくらい別に構わない」

 俺がそう答えると、向かいの席に座っていたオレリアは、急に立ち上がってこちらに歩み寄ってくる。そうして俺のすぐ隣にすとんと腰掛けた。

 ソファは二人掛けとはいえそれほど大きくなく、オレリアと腕が触れるほど距離が近づく。