生と死の境目で僕達は。~学園の頂点を目指し争え!~



これは夢だ。夢なんだ。
妙にリアルで……どすグロくて――


女の子
「なん…で………お、お母さん……!!」


「お母さん────」

女の子
「助けて!!!お母さんが……お母さんが!!」


「……」


俺か……?助けて??
どうしたらいいんだ??


女の子
「ゔッ……」


突如、恐ろしい動きをしながら少女が倒れた。



「ひ、ひ、な……」


そして、母親らしき姿見の人が、少女の前で泣き崩れた。ひなと言うらしき少女は目も口も開かず、呼吸もしていなかった。



「ひな……ひな…ご、めん…ごめんな…さい」


そうして、何故か少女に謝罪し、泣き崩れる女性をただ、
自分は傍観することしか出来なかった。
こんな時にも自分は役に立たない。助けを求められても、
ただ、自分は見届けるだけで。
聞こえてくるのは悲鳴と呻き声。
見えるのは真っ赤に染った血の地面と少女を護るようにして這い蹲う女性の姿。



「どうなってんだよ……!!!」


その場から離れようと走り出した。
ただ、自分の体も重く、痛みは引くことがない。

どこを走っても、通り過ぎても聞こえるのは泣き声と悲鳴。見えるのは真っ赤に染った道路と人間の遺体だけだった。
走って、走って、走って。
目の前の状況から逃げるように走って。
見えないふりをして、聞こえないふりをして。
何も知らない――。



「なんだよ……夢なら早く覚め─────」


そう思った途端、視界が真っ黒に染った。


───目を開けるとそこは、また暗闇の中だった。


「……」

女性
「───起きましたか」

女性の声がした。
けど、何処にいるのか分からず、見渡そうとする。

女性
「動かないで」


何をされるか分からないので、言われるがままにした。


女性
「……今から言うことを何も口を挟まず聞いてください。
この世の全ての国に空から何者か、何かがウイルスを巻い、
今この最悪な事態になってしまいました。
見ての通り、あの世へ亡くなってしまった方も。
――そして貴方は生き残りました。」



(そうか……俺は、生き残ったのか。)


女性
「ですが、貴方は道端で倒れていましたね。
その為、2023年8月8日、事件発生時から2023年3月6日と、他の人より多くの時間眠っており、私達、生き残りは
様々な手段で事件の真相を追い求め、探していました」



(よく、そこまで知っているんだな……。誰かが倒れているのを見つけて運んでくれたのだろうか。)


女性
「そして、私達は実験を積みました。
ウイルス自体はそれ以上は現在、何も分かっていません…。
ですが、1つ分かった事があります。」


そのアナウンスの声の主の女性は少し間を空け、そう言った。


女性
「“能力” 。能力とは何か。それは所謂、SFバトル漫画的な存在です。『人間の次元を超えた力。』
能力は科学的に有り得ないのです。
でも、何故かその有り得ないことが現実世界に起きている―
政府にも対応し切れないのが今の現状です。
国民は「それはどうなんだ」と批判の声を寄せ、
国は崩壊しました。国を仕切るはずの政府もまともに役割を果たせない。人間の手で、能力には適わないからです。
警察も、所詮ただの人間。ランダムに能力が受け渡されているようなので、能力を持っていなければ、他の人に敵わない能力者も居て、宛になりません。
政府も警察も居ないと起こるのは「崩壊」。
法律のお陰で成り立っていたこの世の中は、「法律が無くなった」かのようになっています。
先程、能力の話をしましたね。
能力の持ち主を「能力者」と言います。
逆に何故か能力を持っていない人もこの日本に存在し、
その方々を「無能力者」と言い名付けられています。
無能力者は能力者より明らかに権力が下で、
ここ最近、無能力者は今の状況で「価値のない」存在と見られており、上の能力者から下の無能力者へ行われる暴行が数多く発見されています。
このままじゃ死者数、怪我人も増え、病院側も対応し切れず、どんどん人の数が減ってゆく。
正直、こちら側もどれだけ人数を集めても敵わない能力者も居ます。なので、この国を仕切り、頂点となる人材を作ろうと考えました。乱暴を行わず指導し、権力がある、そんな人材を作ろうと設立したのが、実力主義の学園です。
その学園で上位のランクに上がり、無事に生き残り卒業すると────。もう貴方は国の頂点のような存在となるでしょう。」



(自分が国を仕切り、世界を動かす、か……。
それもまたいいな。)


女性
「そして、貴方はその学園に強制連行となります。
無礼なことは分かっています。
ですが、今の国にそんな余裕と権力、資金がないのです。
少し気を抜くと、気付いたら自分がなくなっているかもしれませんね。――気を抜かず学園生活を楽しんでください。」



(……強制連行か、じゃあ、通ってた学校は───。
今はそれどころじゃないのか。気付いたら自分がなくなっている……どういうことだ?)


それにしても、長い夢だ。地味にリアルで怖く面白い。結局、あの女性の声は録音か直のアナウンスなのだろう。
まあ、その実力至上主義の学園?の人達が設置したのだろうな。



「ま、とりあえず帰るか……」


夕焼けの空の下。洞窟から一歩出る。



「この国……どうなるんだ」


そう思いながら、一歩、また一歩と歩を進める。
人はチラホラ居る。だけど、どこか寂しく、
顔を見るだけで心の中が分かる。



(あれからかなりの時間が経っていたんじゃないのか?
ずっと、悲しいのか?なんだろう、本当に分からない。
この夢は分からないことだらけだ。
――それとも、まだ、亡くなる人が続いているのだろうか)


そんなことを考えながら、家に帰り着くと、何か察し郵便受けの中を見てみた。勿論、学園の招待状があった。



「ほぅ……4月6日に入学で、試験かー。
まーた勉強かよしょうもねえ」


そう思いながら今回は風呂に入ろうとする……が。



「電気使えねーし……そもそも屋根壊れてるな。」


誰かが整備してくれている訳でも無く、
自分の家だけでなく他も壊れていた。
――そして、あの赤い血も。
ベットだけは何故か生き残っていたので、そこでそのまま布団に入る。



「あーしょうもねえ……」


結局、何も無い。
ずっと眠っていたこともあって、眠気が全くない。



「外、行くか」


以前の出来事を思い出すと気が引けたが、
どうせやることがないのだ。
今改めて見ると服は血が着いている。
それに、かなり前の服なので自分で気付く程には臭かった。
着替えようとするが、その服もどこかに飛ばされているのか盗まれたのか知らないが無かった。
諦めて、そのままの格好で外に出て、そうしてどんどん歩いた。3キロ程先、人通りの多い通り道。ある女に声を掛けられた。


???
「……すみません」


歩を止める。
そして頭はフリーズした。


???
「あ、あの」


「……ああ、俺か」

???
「貴方以外に誰もいませんよ……?」


「そう……か」


俺に声を掛けた人はどうやら女性で、今まで女性とまともに話したことが中学以来なので、本当に喋りにくい。


???
「あの、ポストの中身…ちゃんと見ましたか?」


「ポストの中身?」

???
「あ、じゃあ、招待状は受取ましたよね?」


「……あっ、はい。招待状なら見ました」

???
「そこに同封されてた館の地図は――」


「館の地図…です、か。
見てません、気付かなくて。」

???
「本っ当に申し訳ないんですけど…、服も着替えが可能ですし、お風呂に入浴も出来るので、やった方がいいです、絶対」



(あ、結構俺やばいんだな……)


???
「よければ案内でもしましょうか……?」


「え、いいんですか」

???
「あ、はい、全然……。」


そんな急展開で、俺のメンタルを犠牲にし、女性と話すことを乗り越え、清潔さを入手することに成功した。
そうしてまた俺は歩き出した。
どうやらその女性は後ろで歩いて着いてきてるようだ。



(なんかすっごく気まずい…俺のせいか……?
え、臭すぎるから後ろにいるってこと?え、それとも
俺と一緒にいるのが嫌だから???)


そんなことを考えながらずっとおどおど歩み続ける。


???
「あ……そっち、曲がります」



「……あ〜……はい」



(ビビったあ……)


その角を曲がると、商店街の入口付近に辿り着いた。
さっきまで静かで人が居なかったのに、何故かここは人が密集していた。だけどなにか、違う。



「……なにかに注目している――」


???
「……ごめんなさいっ」


突如、いきなり体が吹っ飛んだ。



「――ってぇぇぇぇ!!!!!!!!」


あまりにもの強さで吹っ飛んだので激痛に耐えきれなかった。まあ軽く10本くらいは折れただろう。
目から涙が溢れ、視界がぼやける。



(……俺は人に囲まれている?どうしてだ。
何故ここに吹っ飛んだ?)


???
「おっ!来たか……にしてもくっせえ奴連れて来るなあ笑」


そんなよく分からない事を言いながら、声の主は言う。


???
「かわいちょうでちゅねぇ、痛そうで。」


そう言葉を発しながら、奴は俺の涙を袖で拭う。



(なんだ……?どういうことだ。どうやって吹っ飛んだ。
吹っ飛ばされたのか?どうやってだ?)


???
「何も喋らねえじゃねえか……まあいい。
これから俺様がた〜ぷり声出させてやるからよ。
……色んな意味で。」


周りがクスクスと笑う。



(なんだ?俺は笑われてるのか?何されるんだよ……)


???
「お前はいっつもしょうもない奴しか連れてこねえからなあ笑笑出来したぞ、……沙耶香。」


沙耶香?と再び新しい疑問が頭の中で連呼していると、見覚えのある顔が人混みの中から出てくる。


沙耶香
「……はい」



「…え?」