「俺が言うのも悪いけど、帰る家があるなら帰った方がいいと思う」
私の思惑とは違う言葉を作太さんが言った。
「え?」
私は腑抜けた声が出てしまい、慌てて口を手でふさぐ。
でも、私にとってその言葉が歓迎に値しない言葉なのは間違いない。
私は、帰りたくないのだ。あんな、雰囲気の悪い家など、息が詰まるだけなのだ。
「私は、ちょっと職を探しに行きます」
「いや、それは別にいいんだ」
「え?」
「帰りたくないなら、ここで農業の手伝いをして、暮らしてくれればいい。帰りたいと思うまで」
どうやら、私の仕事場を用意してくれるらしい。
作太さんは独り暮らしで、広大な田んぼを耕すので精いっぱいで、生活が廃れているらしいのだ。
だから、私に世話係、兼農業の手伝いをしてほしいらしいのだ。
安心した。この程度の仕事なら、私も手伝える。
何より、人の役に経つという事が純粋にうれしかった。
何より、家に住まわせてもらっている恩を返すことが出来て嬉しかった。



