「それでね、今日の午後に渡利社長が来ることになってるんだよ。」
「えっ?!きょ、今日ですか?!」
「すまない。わたしが勝手に返事をしてしまった。こちらから伺いますと言ったんだが、渡利社長が"わたしの勝手なお願いだから、こちらから伺わせてもらいます"と言うもんでね、、、。今日の16時に渡利社長がいらっしゃることになっている。」
嘘でしょ、、、?
そんな突然過ぎて、心の準備が、、、
わたしはどんな顔をして、おじさんに会えばいいの?
「楠木さんがW.Tへ行くのか、我が社に残ってくれるのか、それは楠木さん自身が決めなさい。楠木さんの人生なんだからね。」
社長は柔らかい口調でそう言うと、少しだけ口角を上げ、わたしにプレッシャーがかからないような配慮をしてくれた。
わたしの人生、、、
わたしの人生は、新が居なくなってしまった瞬間から終わったものだと思っていた。
でも、生きている以上は、、、終わってはいないんだ。
「わたしの、人生かぁ、、、」
わたしは社長室をあとにし、事務所へ戻る途中の廊下で呟いた。
そのあと、事務所に戻り仕事を再開させたが、時間が気になり何度も事務所の壁掛け時計に目を向けては時間を確認した。
16時に、おじさんが来る、、、
複雑な気持ちを抱いたまま、わたしはお昼に休憩を取り、午後からの業務はなかなか集中出来ず、そして16時になる10分前になってしまった。
すると、社長秘書の今野さんが事務所へやって来て、「楠木さん、お客様です。株式会社W.Tの渡利社長がいらっしゃってます。」と言った。
今野さんの言葉にわたしはドキッとし、「はい、今行きます。」と返事をしたのだが、事務所内の周りの社員たちは「渡利社長が楠木さんに会いに来たの?」「え、どうゆうこと?」と驚きざわつき始めた。
それは当たり前の反応だ。
ただの普通の事務員へのお客さんが、大企業の社長だなんて驚かないわけがない。
わたしは席を立つと、今野さんのあとに続き、応接室へと向かった。



