もうすぐお昼休憩が終わりそうな時間になり、飲み物しか飲んでいなかったわたしは葵くんよりも先に社員食堂を出た。
まだ葵くんのように食堂に残っている人も居れば、わたしと同じく早めに食堂を出る人も居て、わたしは事務所に戻る前にお手洗いに寄ることにした。
すると、「ちょっと。」と後ろから女性の声が聞こえ、"え?わたし?"と思いながら、足を止め振り返ると、そこには茶色い巻き髪に大ぶりのピアスをつけた、わたしと同じ年齢くらいの女性が立っていて、わたしを睨み付けるような表情をしていた。
「あ、わたし、ですか?」
恐る恐るわたしがそう訊くと、その女性は腕を組み、コツコツとヒールを鳴らせながら、わたしの目の前まで歩み寄って来た。
その女性の名札にふと視線を下ろすと、"営業部 佐島"と書かれていた。
「あなたが、今日から商品部に入ったってゆう楠木さん?」
「はい、商品部に配属されました、楠木一花と申します。よろしくお願いします。」
わたしがそう言い一礼すると、その佐島さんという女性は「別によろしくするつもりはないけど。」と冷たく言い放ち、わたしはショックというよりも驚きで、胸がギュッとなった。
「楠木さん、あなた、、、社長の知り合いなんですって?そのコネを使って入社するなんて、良い度胸してるわね。」
「いえ、わたしはそんなんじゃ、」
「どうせ、渡利くん狙いなんでしょ?渡利くんは次期社長ですもんね。渡利くんに近付く為に、社長に入社をお願いでもしたんでしょ?」
「わたしは、そんなつもりで入社を決めたわけではありません。」
わたしがそう言うと、佐島さんはフンッと馬鹿にしたように鼻で笑うと「あなた優秀らしいじゃない?どれくらい優秀なのか、これからが楽しみだわ。」と言い、わたしの横を通って去って行った。
あの人、、、何なの?
わたしは去って行く佐島さんの後ろ姿を見つめると、気分が悪いままお手洗いへ向かい、それから事務所へ戻り、午後から杉浦主任の付き添いの元、少しだけ業務をやらせてもらった。



