きみの笑顔が咲く日まで


わたしたちの始まりは、中2の夏休みに入る前日の終業式の日だった。

一番窓際の一番後ろの席でわたしが帰り支度をしていると「楠木さん!」と呼ばれ、ふと見てみると、教室の後ろの出入り口に隣のクラスの渡利新くんが立っていた。

わたしが歩み寄って行くと、彼は周りに人がたくさん居る中、廊下のど真ん中で「好きです、付き合ってください!」とわたしに告白をした。

突然、みんなが見ている中での告白にわたしは驚きと戸惑いで「え、わたし?」と間抜けな返事を返した。

「はい。俺は、楠木一花さんが好きです。」

高身長の彼の真剣な瞳を見上げて見つめると、わたしは照れくささがありながらも「よろしくお願いします。」と告白を受け入れたのだった。

新は、バスケ部のエースで女子たちの目を引くイケメンで、なぜわたしなんかを選んでくれたのか不思議で仕方がなかった。

わたしは成績は普通、運動神経だって良くも悪くもない、真面目以外に何の取り柄もなく、眼鏡をかけてどちらかといえば新のように目立つタイプではない。

しかし新はわたしのそんな不安を拭ってくれるように、わたしと付き合っている事を知っていながらも告白してくる女子たちに必ず「俺、彼女いるから。」と断ってくれていた。

新は、いつも優しく、わたしを思いやってくれた。

そんな彼にわたしはどんどん惹かれていき、恋を覚えた。

半年も経つと、新の家にお邪魔するようになり、新のご両親と新の弟である葵くんとも仲が深まっていった。

新のお父さんが家に居る日は、必ずゲーム好きのおじさんに「マキオカートやるぞ!」と誘われ、おじさん、新、葵くん、わたしの四人で通称"マキカ"のレースゲームをして遊んだ。

大人げもなく手加減しないおじさんはいつも一位。
次に二位が新で、わたしが三位、四つ年下の葵くんは大体五〜六位でいつも不貞腐れていた。

「一花に勝ちたい!」

悔しそうにそう言う葵くん。

「こら!一花って呼び捨てにすんな!」

葵くんは新にそう怒られていたが、わたしが「いいよ、一花で。」と言うと、葵くんはとても嬉しそうに微笑んでいた。

楽しかった、幸せだった。

こんな日々がこれからもずっと続くんだって、何の疑いもなくわたしは思いながら過ごしていた。